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悪役令嬢?ってあたしのこと?

精霊王に愛されし令嬢は、本当は悪役令嬢だった。

作者: 桜田 律 

初めての悪役令嬢ものにて、色々突っ込み満載なお話になりましたが、温い目で読んで頂けたら。

コメディテイストのお話です。


追記

序章的な話

更新しました。

http://ncode.syosetu.com/n6487ei/


「エレン ・ セレンソン。そなたとの婚約を破棄する」

そう宣言されたのは、本日婚約発表をする為に集められたパーティが始まるドアの前。

名が呼ばれてから会場へ二人で入る直前だった。

もう覆すのは無理かと諦めていたところだったので、おもわずヨッシャー!と拳を高く上げたくなったが、必死に抑えた。


やっと、やっと解放される!あの大・大嫌いなマナーの勉強、ダンス、令嬢としての立ち振る舞いなど、これで辞められる。

だいたい侯爵令嬢だからっていう理由で、第一王子の婚約者に8歳でなるのが決まっているとか、おかしいでしょ。他にも候補は居たのに、一番地味なあたしに決まるとか。完全に嫌がらせかと思った。あんなの、なりたい人がなればいいのよ。そのせいで面倒な視線を気にして、自分を偽ってきたのだから。


まあ…、色々やらかしてきた自覚は少しはある。

チートな精霊たちが頑張ってくれたお陰で、ハーブティどころかアロマも開発できた。

それにより石鹸も改良したし、消毒をアロマ使って出来ることを奨励したし、化粧品も作った。

それらは一応お母様がしたことになっているが、王族は誤魔化せない。その為に国にとって利益になると思われたのだろうとは思う。

その上精霊の加護もってるし、王太子がどうかなんて関係なく推挙されたのでしょう。


あたしが自重したつもりだけど出来てなくて、色々やらかしているからこそ、お父様もお母様も覆せなかった。

それならば、自分で頑張るしかないじゃない?

嫌な結婚して、お互い不幸になるなんて駄目だもの。

それに、これを突き通すとあの人の怒りが王室に向かう。それだけは避けたい。


それにしても婚約破棄されて喜びに溢れているのを誤魔化すために、深く頭を垂れていたのだけど、どうやら悔しさで泣いていると思われているようで、よくわからない言葉が頭上を掠った。


「マルガレータ・ヨーンソン子爵令嬢に謂われのない罪を着せたな?」

ん?

「マルガレータ様?どなたですか?」

思わず顔を上げてしまった。間抜けな顔をしていたのを、急いで表情を取り繕う。

正直名前も顔も聞いたことがない。婚約破棄は嬉しいけれど、謂われのない罪で破棄されたことにより、家に迷惑が掛かるのは避けたい。


「とぼける気か」

「とぼけるもなにも、全く身に覚えもないし、わかりません」

「マルガレータ、こっちに来て説明してくれ」

「はい」


嬉しそうに第一王子、マルク ・ ヴェッツの背後から出てきたのは小動物系の小柄な令嬢だった。

優雅さもなくちまちまと歩く姿はまさにハムスター。庇護欲をそそるタイプと言えば良いのかしら?

前世の記憶を持ち合わせているあたしからすれば、あざと可愛いってやつにしか見えない。

まあ、わかってやっているのだろうけど。


不躾と言われようとも、あたしに全く見に覚えがない為に上から下までしっかり観察したが、やっぱりわからない。いくらあたしの顔覚えが悪いと言っても、流石に罪を着せたとか言われるぐらいだから言葉を交わしたことがあるのだろう、と思ってみるのだが、…やっぱり見覚えがない。


マルガレータ嬢は不躾な視線もものともせず、堂々とあれこれを言ってくるのだが、それをあたしが実行したと結論付けるのは、難しい。

それにしてもあたしを陥れるのはいいけど、もっと他になかったわけ?


食べ物に虫を入れられたとか。

「それはなんていう虫かしら?それに誰がその虫に触れられるの?」


階段から押された。

「本人が気を失ったというのなら、誰が犯人を見たのでしょう?何度も言わせて頂くけど、あなたを今日初めて見ましたわ」


罪を着せた。

「お金の着服とかそんなはした金、いらないわ。こんなだけど一応侯爵令嬢なのよ。

しかもしっかり自分で稼いでいますし」



「…本当に意味が分かりませんのよ。誰かわかるように説明してくれないかしら?」


名を呼ばれてからも入場しない王太子とあたしを訝しんで、ドアの前に現れた者達に向けて声を掛けた。誰も首を傾けたり振ったりするだけで事情を呑み込めていない。

そしてハッとしたように、バタバタと周りがし始めた。



「ということなのですが、それらがあたしだという証拠を見せて頂けないかしら?」

「そんな言い逃れをしても駄目だ!」

「ですから、その根拠をお教えください。まさか、確たる物証もなく思い込みだけで言われてませんよね?た・だ・の、子爵令嬢が、侯爵令嬢たる私に言いがかりをつけるなど、あり得ないでしょうから」

にっこり微笑んで、説明を促した。


そこまであたしが理論整然と話すとは思っていなかったのか、二人ともポカンと口が開いている。

あかん、これただのバカだ。


今までマルクとコミュニケーションをわざと取ってこなかったから、大人しくて何も出来ないただの令嬢だと思い込んでいたのでしょう。だから人目があるところで追い詰めれば、恥ずかしさで逃げるだけだと勘違いしてしまったのか。逃げればそれを認めたと言われてしまっても、仕方ない。後でいくら言い募っても王太子が証言してしまえば、覆すのは難しくなる。


まあ、あたしに前世の記憶があって普通の令嬢じゃないことや、精霊の加護持ちということを殆どの者は知らないのだから、仕方ない。

でも、既に仕方ないで済ませる範囲になっていない。

この発表が成されたら後戻りは出来ない為に、焦ったのはわかるけど…。

ちょっとどころか、かなり軽率すぎない?

人目がある場所で断罪したせいで、気のせいでしたとはもう言えない状態だ。

この王太子、終わったね。


ここまでバカだったとは思わなかったけど。


「これは、どういうことだ?マルクよ」

ああ…ここであたしの脳内に流れるテーマ曲はあれしかない。

言葉に出来ない程の恐怖が襲ってくるような、あの曲。

デーレン デーレン…


思い出していると鳥肌が立ってきた。

もう、帰りたい。

そう思った瞬間、あたしの周りに風が纏う。どうやらマルクとマルガレータに腹を立てた風の精霊ウパラが、帰りたいと願うあたしの願いを叶えようと風を起こしているようだ。


「エレン ・ セレンソンすまぬが状況を教えてはくれぬか」

それをいち早く察知した王が問いかけてきた。

慌ててすぐに膝を折り、国王への礼をとった。


風と大気を司る精霊ウパラにはもう少しだけ我慢して欲しいと伝えれば、渋々ながらも風を止めてくれた。

『早く決着付けないと、あの方が出てこられるわよ?』

もう遅いかもしれないけど…。という呟きは聞かなかったことにする。


『ありがとう』言葉に出来ないので、念話でしっかりと伝えれば、了承したとばかりに優しい風が頬を触った。

そんなことになっていることに気づきもしないマルクは、言い訳をしようと言い募る。


「父上、それは私から」

「黙れ。私はエレンから正しく聞きたいのだ」

有無を言わせない低く響く声は、周りのざわめきさえ鎮まった。


ヴェッツ国の国王ロレンツィオ ・ヴェッツはマルクの言葉を遮り、エレンに状況説明を促した。

「恐れながら申し上げます…」

先ほどのやり取りを申し上げようとすると、それを遮るようにエレンの肩を引く者が居た。

エレンはそれが誰だかすぐにわかり、肩を落とした。

ああ、あたしの段取りは全て無駄になった。


精霊に人間の常識など通用しない。

この世界の理の中に息づく精霊達は、人間の良き隣人として探せばどこにでも居る。だがその姿を見ることが出来るのは稀で、しかも魂が穢れた者を精霊は避けるといわていた。その為に加護を持つ者は、どの国でも手厚く保護をされる。何故なら精霊達に気に入られし者は、その力を借りて手にすることが出来と同時に清廉な者だと証明されるからだ。


風で種を運び、緑を芽吹かせことも、船を運ぶことも、切り刻むことも。

熱い炎で火を熾すことも、明りを灯すことも、全てを燃やすことも。

全ての緑を育てることも、浄化することも、枯らすことも。

生命を息づかせることも、恵みを与えることも、氾濫を起こすことも。

与えることも奪うことも等しく出来るその力を欲するのは、世の理。


精霊使いは国によって保護されると同時に、ある程度は登録制度で管理されていた。国からの依頼をこなして貰う為だ。

それにあたしも何度か依頼を受けている。侯爵令嬢ということで危ない任務よりは、雨を降らすとか、育たない作物に活力を与えるとか。

最近はそのような事態も殆どなく平和そのものだ。その権化と言われる精霊王が、ここにいるのだから間違いない。

お陰で屋敷の庭のハーブやら薬草などが豊富で、全く退屈しない。

引きこもりの侯爵令嬢とは、あたしのことだ!


あ、そんなことを考えている場合ではなかったわね。

「精霊王…どうしてここに?」

出てきた意味を頭では分かっているけど、心で認めたくないというか。

「往生際が悪いな。エレン」

先ほどまでヴェッツ国王と王太子マルクを睨んでいたとは思えない甘い声とマスクで、額に口づける。

エレンの体がぽわッと光った。


これはもう誰にも誤魔化しようがない。

精霊の加護、それも精霊王の加護を持っていることが、ここに居る者全員に知れ渡った。このことにより、エレンは普通の暮らしが出来なくなる。

誘拐とか脅迫とか陰謀などに巻き込まれない為に、複数の護衛が付くことになるだろう。そんな窮屈な思いをしたくなくて必死に隠してきたし、秘密裏に婚約を破棄できるように手回ししてきたというのに。

…といっても、王太子の好みの女性を宛がっただけだけど。


「嘘よ」

精霊王に対して、周りの人々が敬意を示している中、先ほどマルクがエレンに紹介したマルガレータ嬢が、わなわなと震えながらエレンを睨んでいた。

「マルガレータ不敬だぞ」

流石にバカだと言っても王族の教育はなされているようだ。マルクが青い顔をしながらマルガレータに礼を取らせようとするが、それでもマルガレータは聞こえてないのか話し始めた。

「だって!エレンは悪役令嬢で、精霊王の加護はヒロインのあたしが受けるべきものなのに!」



え、あたし悪役令嬢だったの!?こんなにも地味なのに。

というか、そんなことが書かれてあった小説か乙女ゲームかあったのね。それならあのマルガレータの過剰な自信はわかる。今回のことが失敗するなんて、爪の先ほどにも思っていなかったのだろう。

しかもマルガレータを、自分を知らない人が居るとか思わなかったらしい。

どうやらどこまでもヒロイン気質で、おつむがお花畑に住んでいる人だったらしい。

現実がフィクションと全く同じに事が進むと思っていたのなら、余りにもお粗末だ。



マルガレータを憐れむように見た。

少し震えているとは言え、精霊王のブリザードのような視線を受けて、よく立っていられる。世間体に疎いと言われるあたしでさえ、このままではまずいとわかるのに。

そして周りの状況を知ろうともせず、自分の世界が奏でられていると信じている様子は、滑稽すぎて哀れだ。

それだけの肝が据わっているならば、正々堂々と挑んでくれたら喜んで王に進言したというのに、残念な結末だ。


精霊王、キリル・フィラレーエフは嫌悪感丸出しで、何を言っておるのだ?とあたしに問う。

「精霊王がわからないのに、私がわかるはずがございません」

「いい加減、いつものように名を呼べ」

精霊王に少し苛立ったように言われて、言葉を偽ることは出来ない。諦めて名を呼ぶ。


「キリル様」

ジト目で見られる。

ああ、もう!わかりましたよ!もう…逃げられない。

「キリル」


一人満足そうにあたしを抱きしめた。

皆の視線が集まって恥ずかしいからともがくが、一層腕の力が強くなる。

『ちょっと、キリル!』



「ということだ。ヴェッツ、そしてセレンソン。エレンは我に貰う」

ヴェッツ国王は驚愕の顔で、我が父、母は納得だとばかりに頷いた。

どうやらいつも傍にいたのは精霊王だと気付いていたようだ。



そこでわかっていない者が一人。居ないものとして扱われているマルガレータ嬢だ。

なんで名前を呼んだらそうなるわけ?そんな設定なんてどこにもなかった。ただ出会えばそれだけで運命のように惹かれあったはず。他の男達と同じように。

どうして…どうしてよ!



あたしだって知らなかったわよ。突然名前を呼べと強張られたんだから。

綺麗なものに目がないから抗えなくて呼んだだけなのに、それが花嫁を意味することだったとか。騙し討ちもいいところだ。

それでもキリルのことは嫌いになれないし、傍に居るだけでホッとするのは間違いなくて、向けられる眼差しにドキドキしっぱなしなのは、乙女だからと思って欲しい。

5歳から10歳までずっと精霊王の命により、温かな陽だまりの中でずっと上位精霊たちによって守られてきたのだ。

どんな時も危なくなる前に、キリルが難しくてもあたしが望む前に精霊達がお菓子の報酬と共に、常に寄り添ってくれた。

それを嫌うなど、ありえない。

異性として意識し始めてしまえば、好きになるのに時間は掛からなかった。

傍にいるのが家族よりも当たり前になっていた。



しばし無言が続く。

ダメだ。精霊王であるキリルが出てきてしまっては、身分関係なくここを収められるのはあたししかいない。

勇気をもって言葉にしなければ!

それが伝わったのか、やっと腕の拘束が解かれた。

紅い顔は、許して貰って。


「それではヴェッツ国王様、婚約解消ということで宜しいでしょうか?」

「ああ、そなたが娘になってくれることを望んでいたが、仕方あるまい」

「ありがとうございます」

王に礼を取った後、マルクに向き合った。

「マルク様が幸せになることを、お祈り申し上げます」

軽く頭を下げた後、これでこの場は収まった!後は王の采配に任せようと、エレンはキリルを伴いこの場を退場しようとしたが、それは叶わなかった。


「待って下さい。キリル様!」

その瞬間耳をつんざくような大音量の雷が城に落ちた。

あちらこちらで悲鳴が上がる。


「おまえに我の名を呼ぶ権利を与えてはおらん。ヴェッツよ、二度と我とエレンの前にこの女を出させるな!良いな?」

「心得ております。衛兵、この者を引っ捕らえよ!」

「父上!」

「くだらない女に掴まりよって。おまえも同罪だ、謹慎を申しつける!マルクを部屋に放り込め!」


エレンの思いもよらない事態へ向かっていく結末に、頭を抱えた。

どうしてこうなった!?




悪役令嬢の使命なんて知らないし、ヒロインがいるとかもっと訳が分からない。捕らえられたマルガレータが転生者でこの世界のことを知ってたとか、想定外なことが多すぎて頭が回らない。


「エレン、ゆくぞ」

この場を早く立ち去ろうとするキリルに、違和感を抱いた。あたしだって、さっさとこんな場所立ち去りたい。立ち去りたいけど…。

「ねえ、キリル。知ってたわよね?」


何をとは、わざと言わない。

そして言葉が返ってこない意味は、yesだ。

精霊に嘘がつけないと同様、精霊もまた嘘がつけない。


「いつから?」

「エレンに出会う少し前だ。エレンと魂の輝きが似ておったから、近くまで見に行ったことがある。緑の精霊が興味を示したので会わせてみたが、加護を手に入れた後はそれを活かそうともしなかった。だから年々その輝きは失われ、黒ずんでいった。運命を待つだけの者に、興味は無い」



なるほど…。殆どの者が持っていない加護があるからこそ、ヒロインだという思い込みが助長されてしまった。更に多分攻略対象?の王太子とも恋仲になったし。


スッキリしない!

だけど加護を持っているなら、本人が心入れ替えてまじめに義務を果たすなら、多分悪いことにはならない。


「エレン、覚悟は出来てるよな?」

「もう少し、もう少しだけ…」

「我は充分待った。待った我にはご褒美が必要だと思わないか?」

口の端を上げるキリルに、あたしの勝ち目はない。


だけど自分の我が儘で周りに迷惑を掛けてしまった。さっさと精霊王の加護持ちだと言ってしまっていたら、婚約破棄は簡単だったろうし、マルガレータ嬢も拘束されることはなかった。

人生を狂わせてしまった一端を担いでしまった限りは、その罪滅ぼしぐらいはさせて欲しい。


「言っておくが、エレンが気にすることはなにもない」

「でも!」

「マルガレータはこのことがなければ、他の男に刺されて死んでおったからな」

「へっ」

「間の抜けた顔も可愛いが、侯爵令嬢としてはどうなのだ?」

「キリル…」

「当たり前だろう。ただの子爵令嬢が王太子と恋仲になるなど、余程のことがないとあり得ない。王太子の側近の男どもにすり寄ってここまで来たのだ。明るい未来など、ない」


常識外れな事ばかりするキリルに、常識を語られて釈然としないが、ヒロインとして逆ハー狙いで行動していたならあり得る話だ。

「だから、おまえは善行を施したのだ。わかったか?」

「わかりました」

「では、花嫁になるのに憂いはなくなったな?今宵は婚約祝いぞ!」


キリルが言霊を紡ぐ。

それにあわせて周りが一斉に輝き始めたと思ったら、精霊達の祝福の歌が鳴り響いた。


綺麗…。

先ほどまでの喧騒は感嘆に変わり、人々も祝いの言葉を紡ぐ。


意地を張るのはここまでか。まったりした日々は、気に入ってたんだけど。

「キリル、好きよ」

「やっと認めたな」


精霊達の祝福と花びらが舞い上がり、自分たちを囲む。

甘い匂いと共に、ふわっと浮き上がったと思ったらキリルに抱き上げられていた。

「しっかり掴まっていろ」

そのまま夜の空へと舞い上がる。

そこには見たことも無いまばゆいばかりに星達が輝いていた。


『おめでとう!』

風が二人に祝いの言葉を運ぶ。

二人は微笑みながら、誰にも邪魔されないそっと寄り添った。

「やっと二人きりになれた」

キリルはエレンの顎を持ちクイッと持ち上げると、初めての口づけをした。

「これで俺のものだ。誰にも邪魔はさせない」





キリルは恥ずかしそうに微笑むエレンが愛しくて仕方なかった。

ずっと10年間も見守ることしか出来なかったために、少々箍が外れているのは大目に見て欲しい。


「少しは自重して下さい」

そんな可愛いことを可愛い顔をして言えば、もっと触れるしかないとエレンは分かっていない。

一度触れてしまえば、麻薬のように加減無く欲してしまう。

口づけだけでは物足りない。

だけど侯爵令嬢と精霊王という立場では、暴走するのは好ましくないことは明白で、我慢するしかない。

「なんだ、ダメなのか?」


案の定頬を膨らませ、狡いを連発する。

俺からすれば、それが狡いと思うのだが?

惚れた弱みだ。


始めはずっと好きだった女性『希吏』の魂を守るために、自分の傍に置いておきたかった。

それこそ光・闇の精霊に疎まれようとも、真綿にくるむように危険から遠ざけ、守りたかった。


だけど侯爵令嬢として生まれ変わったというのに、お淑やかにするどころか以前よりも自由に自重なしに行動する姿は、微笑ましいを通り越して勘弁してくれと頭を抱えるほどだった。

精霊達に王は過保護すぎると苦言を貰うくらい、自分が拘束しすぎることはわかっている。それでも運命が通り過ぎるまで、安心出来なかった。


そう、あの女だ。

希吏は覚えていないが、前世も希吏に付きまとい、貶めるようなことばかりしていた。希吏の死をさえあいつが呼んだと思っている。それがあいつがヒロインだと?

この世界は破滅に向かいたいのかと思ったほどだ。

この世界のことは気に入っているし、エレンを守るという使命があったために、緑の精霊に張り付かせ逐一女の行動を報告させた。その為にエレンに会おうとするのを、何かと理由を付けてすれ違わせることが出来たのは僥倖だ。


だからエレンがあの女のことで気に病む必要など無いのだ。エレンの婚約者となった今は、どんな手を使ってでもあいつを近寄らせたりしない。


「キリル…どうかしたの?」

「ん?エレンが可愛すぎて困っているだけだ」

「そんなことばかり言って!」

「事実だからな、これから先どんなことがあってもずっと一緒だ」

「…はい」


「ああ、本当に可愛すぎる!!」

「キリルのばかぁっ」

「そんなことを言う口は、塞ぐに限るな」


漏れ出る吐息ごと奪いながら、キリルは願う。


早く、結婚してー!

精霊王の威厳はどこにもなかった。

ただ男の本音が漏れていた。


悪役令嬢のお話は読むのがとても好きなのですが、

書くとなったら、本当に難しいと知りました。


改めて読み直すと、なんのこっちゃ。という感じがあったので、序章的な話を入れました。

それを踏まえて本文を少し変更しました。


拙い話を読んで頂き、ありがとうございました。


※ キリルも実は転生者 という設定です。

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