薔薇騎士の花言葉
ーーたとえ死んでも、貴方を守る。
若き騎士はそう言った。青薔薇を家紋とし、姫を守る家である。
オレンジの薔薇、花言葉は無邪気、健やか、信頼、絆。
咲き乱れるオレンジ色の薔薇園で、幼い二人が遊んでいた。片や姫、片や騎士。「私が危なくなったら、助けに来てくれる?」
姫に尋ねられ、騎士は頷く。若き日の約束。その証として膝をつき、首をたれると、蕾の白薔薇を彼女に送る。花言葉は「恋するには若すぎる」
時がすぎ、姫の婚姻がやって来た。涙を浮かべ、姫が騎士に泣きすがる。
「お願い、私を連れて逃げて」
騎士は首を横にふり、蕾の黄色い薔薇を手渡した。花言葉は友情、献身、恋に飽きた。蕾では特に「笑って別れましょう」。
姫は薔薇を叩き落とし、部屋に籠って泣いた。騎士は何も言わずそこを去り、隠していた赤薔薇を川に投げる。赤薔薇の花言葉は愛情、情熱、「貴方を愛します」渡せなかった薔薇が川の彼方に消えるまで、騎士は黙して眺めていた。
姫が王妃となって数年後、隣国との間に戦があった。そして王妃のもと届けられる、騎士の訃報とピンクの薔薇。花言葉は感謝、温かい心。王妃は自室に籠って密かに泣いた。
「嘘つき!守るって言ったじゃない!」騎士は死んだ。
やがて戦禍は国を覆い、王妃は幼い王子と逃げ落ちた。もはやこれまでと諦めたところ、駆けつけた者たちがいる。兵士あり、農民あり、商人あり、山賊あり・・・彼ら曰く、「生前の騎士に世話になった」「恩は王妃に返してくれ、死後を頼むと託された」
集まる数は万を越えるそのなかで、進み出た鎧姿が一つ。静かに王妃に一礼すると、そのまま崩れ落ちた。鎧を見れば、中身がない。まるで人など、最初からいないが如く。ああ、と泣き崩れた王妃に、周りの者も声がない。鎧に刻まれた紋章は、あの騎士の家紋たる青薔薇。花言葉は不可能、神の祝福・・・そして奇跡。
王国は滅びを免れた。王妃は騎士の墓に、毎年のようにオレンジの薔薇を送ったという。
薔薇は送る数にも意味がある。王妃は常に999本を送った。その意味は「生まれ変わってもあなたを愛します」