8 クリサンセマム・ムルチコーレ
「じ、じゃあ……」
三人に一応挨拶をしてから、ドアの取っ手に手をかける。
が――。
「んぬっ!」
開かない。
どこかつっかえてるのか?
さっきはスムーズに開いたのに。
引き戸を持ち上げるようにして浮かしながら動かそうとしたけれど、それでも動かない。
まさか。
オレは振り返り、三人を見た。
「まあ、そういうわけよ」
美少女が軽く肩をすくめながら言う。
「そういうわけ、って言われても……」
「だからつまり、眼鏡を忘れてその場を離れることのないように、自動的に部屋がロックされます。理由は訊かないでね。そういう仕様なの。これが外だったら、一定距離以上離れようとしたら、足が前に出なくなるの。もし乗り物に乗っていたら、たいていその乗り物がトラブルを起こして停止することになるわね」
「どんだけはた迷惑な仕様なんだよ」
「しょうがないでしょ。そのくらい大事なアイテムだってことよ、その眼鏡はね。まあ、忘れ物防止策にしてはかなり高性能ではあるわよね」
高性能っていうか、強制的に過ぎるだろう。
理由を訊くなと言われても――。
「仕様の一言で納得できるか!」
「してもらうしかないわね」
美少女には、説明するつもりがないようだ。
「納得なんて、無理無理。絶対無理だって。ていうか、そのひどい仕様、一体どうすれば解除できるんだよ。何か方法があるんだろ?」
引き返して、三人に詰め寄る。
このままじゃあ、日常生活にも支障が出かねない。
けれど三人は、揃って首を横に振った。
オレはショックのあまり、がくりと床にくずおれる。
「多少気の毒な気がしますね」
「まあなぁ」
「もう少し、やりようってものがあると思うんですよね」
黒眼鏡と赤眼鏡がオレの頭上で会話をしている。
「な、なによあんたたち。まるでわたしが悪いみたいな目でこっちを見ないでよ!」
「可哀想に。見ろよ。無理やり連れてこられた上に、強引に仲間に引き込まれて、こいつ、ショックのあまり立ち上がれないんだぜ」
ここに無理やり連れてきたのはおまえだろ、とつっこみたいけれど、そんな気力も残っていない。
「って言われてもねぇ。わたしに言えることは、ただひとつよ」
「な、なんですか?」
おれは恐るおそる訊いた。
「これからがんばって頂戴ね」
優しい声と共に、ぽんと肩を叩かれた。
何をがんばれって?
これからオレは一体どうすればいいんだ。
どうもしなくてもいいのか? 仲間ってなんなんだ?
訊きたいことは山積みだけど、どれから訊けばいいのか判断に困ったオレは、両手を床について長く息を吐いた。
と、ちらりと視界の隅に黄色いものが見えた。
自分の胸だ。見ると、そこに黄色い花が咲いている。
ああ、これがクリサンセマム・ムルチコーレか。
両手を床についたまま、そんなことを思った。




