7 眼鏡と数珠と
「えぇっ!?」
なにが起こったのかわからないオレは、瞬きを繰り返した。
眼鏡か? 眼鏡をかけたから見えるのか?
でもあの花……一体どうなってるんだ? 体内に咲いてるのか?
枝と花は見えるものの、幹や根までは見えない。腹のあたりはぼやけて見える。
「やれやれだな」
息を吐きながら言う赤眼鏡の胸には赤い椿の花が。
「ご愁傷様。これで君も僕たちの仲間だよ」
そう言う黒眼鏡の胸には黒い花が見える。
あれが黒百合か? じゃあ、美少女の胸に咲く白い花が白木蓮なのか。
実在する体に、花の描かれた薄いフィルムを重ねたように見える。
「どうなってるんだ、これ……」
眼鏡を上に持ち上げると、花の画像が消えた。
眼鏡のレンズが変なのかと思って確認してみても、そこには透明な普通のレンズがあるだけだ。
つまりこれが、視力がよくても見えないものの正体なのだろう。
「いい? 人の一生は花の一生と同じなわけよ。わたしたちはみんな花をもっていて、その花は十六歳の誕生日に咲くの。もちろん同じ種類、同じ色の花をもっている人も沢山いるわ。そして……この眼鏡をかけているとわかると思うけど、赤ちゃんのころはまだ芽が出たばかりの状態で、それが成長に伴ってだんだん蕾になってゆくわけね。咲いた花はわたしたちが死ぬ時に散るわ」
長々と説明されても、オレにはへぇ、くらいの感想しか言えない。
「この眼鏡は、その花が見えるようになる不思議な眼鏡なのよ。素敵でしょう?」
美少女が得意そうな笑顔を浮かべている。
「いや、別に必要ないし」
全く興味ないし。
花が見えなくても、別に困らないし。
むしろ、これまでだってそんなもの見えてなかったけど、問題なかったしな。
「まあまあ、それでね……。はい、手出して。どっちでもいいから」
「人の話を聞けってば……」
「まあいいわ。はい、左手ね」
無視かよ。
冷たい指先がオレの手首に触れた。
驚いて手を引っ込めようとしたが、美少女はオレの手首をしっかりとつかんで、さっと数珠をはめてしまった。
「ちょっ、これはなんだよ!」
「転がり出た果実を還すのに必要なものよ。あ、いらないって言っても、もうはずれないから諦めてね」
「なんだってっ!?」
オレはぎょっとして数珠をひっぱる。
くそっ、本当だ。
まるで手錠みたいにがっちりはまっている。
一見したところ、何かの木で作られている普通の数珠で、そんな強度があるとはとうてい思えないのに。
「これで完成ね」
「お疲れさん」
「咲さん、でも、まだ彼は納得してないみたいですよ」
「納得なんてものはこれからおいおいしてゆけばいいのよ。おほほほほ」
おほほほほ、じゃないっつの。
ひとまず数珠は諦めて、眼鏡をはずす。
幸いなことに、眼鏡ははずれるようだ。
この眼鏡、色が派手なことを除けば、見た目はごく普通だ。プラスチックのレンズにセルフレーム。
「どういうカラクリかは知らないけど、勘弁してくれよ。この眼鏡も数珠も返すって」
「だから返せないのよ。一度身につけてしまえばね」
「不可抗力だ!」
「不可抗力だろうが不意打ちだろうが、一切考慮されません。諦めて仲間になって。お願いよ」
美少女が両手を組み合わせ、オレを見上げてくる。
といってもこの美少女、身長が高いので、175センチほどのオレとはそれほど視線の高さが違わない。
「……だって眼鏡は外れるじゃないか」
「試してみる? 預かってあげるわよ。そのままこの部屋から出ようとしてごらんなさい」
「はぁ?」
手放してもいいと言うのなら、とっとと手放すさ。
眼鏡を外して、美少女に渡す。
三人が哀れみのこもった目でこちらを見てくるのが気になるけれど、帰ってもいいっていうなら喜んで帰らせてもらう。
オレはそのままドアに向かった。




