3 いつもの多目的室で
「そろそろ悟郎ちゃんのおうちのお団子を制覇できたかしらね?」
「そうですね。というわけで、今日はまたみたらし団子です」
「懐かしいわね。マコちゃんに初めて会った日に食べていたお団子じゃない」
「薫さん、いつ見てもすごいですね。そんなに食べて、どうして太らないんですか?」
「雪ちゃん、それはね、毎日しっかり運動しているからよ」
「う、運動ですか? 薫さんって、部活動とかしていらっしゃらないですよね」
「部活動してるじゃないの。トリプルGの集まりはもう、立派な部活よ」
「そうなんですけど……うちはあんまり運動ってしないですよね?」
「ああ、運動? 運動はね、夜やってるから」
「夜って……家に帰ってからってことですか?」
「なあに雪ちゃん、そんなきょとんとした顔してとぼけないでよ。夜やる運動なんて、一つしかないじゃない」
「え? 一つですか!?」
「咲先輩、せっかくできた可愛い後輩に変なことを教えるのって、僕はどうかと思いますよ」
「変なことじゃないわよー。ねえ、豪」
「ああ、めちゃくちゃ気持ちいいぜぇ。俺と薫の相性はばっちりだからな」
ガハハハハハ、と豪が豪快に笑う。
―――
廊下にまで赤眼鏡の馬鹿でかい笑い声が響いている。
「ちわーっ」
すっかり恒例になった放課後の多目的室訪問。
ドアを開けると、顔を真っ赤にした小原さんと、呆れたような顔をしている悟郎さん、そして団子を頬張る咲先輩と、にやにやしている赤眼鏡がそこにいた。
「すっ、須賀くんっ!」
「な、なんだよ……」
涙目でオレを見てくる小原さんに少し動揺しつつ、控えめに教室に踏み込む。
「よ、夜のっ……。き、気持ちがっ……。あ、相性がっ……」
「えぇ? 何?」
事情のわからないオレに救いを求められても困る。
「おい赤眼鏡。何やったんだよ」
とりあえず赤眼鏡に訊く。
おそらく犯人はこいつだろう。
「何もやってねえよ。ただ、事実を話しただけだぜ」
「そうそう。ちょっといい汗かく話をね」
咲先輩が団子を食う合い間に言う。
この二人が犯人か。
「いい汗って……」
なんのことだよ、と訊き返しそうになって、さっきのヒントと照らし合わせてはっとする。
まさか……まさかこの人たちは恥ずかしげもなくそんな話を!?
「そう。マコトくんが思い当たったそれが正解だよ」
正解って……。
オレは真っ赤になっている小原さんを見た。
つられてオレまで赤くなってしまいそうで、慌てて目をそらせる。
「咲先輩、小原さんはどこからどう見てもそんな話に免疫がなさそうだろ。なんて話を聞かせるんだよ」
「あらあ。いつかは知ることよ。せっかくだから色々教えてあげましょうか? わたしは全然平気よ」
「けけけけ結構ですぅ……」
雪がぶんぶんと首を横に振る。
「勘弁してくれよ。そもそも、あんたたちってつきあってんの?」
「えぇ?」
「今更、何言ってんだよおまえ」
オレがずっと疑問に思っていたことを訊くと、二人して驚いた顔をする。
「いや、今更って言われても、オレ、これまでに聞いた事ないし」
「聞かなくてもわかりなさいよ」
「そうだぜ。ぱっと見りゃわかるだろうが」
「ぱっと見てわからないから聞いてるんだよ」
「豪、教えてあげて」
「おう。俺たちはだな」
「俺たちは?」
「夫婦だ」
「――はあっ!?」
オレと悟郎さんの声が重なった。
悟郎さんも知らなかったらしい。
小原さんに至っては瞬きをすることしかできないでいる。
「ふっ……夫婦って……。だって苗字違うでしょうが」
「夫婦別姓は問題ねえだろ」
「まだ高校生だし……」
「十八で両親の同意あり。ていうかむしろ家の意向がばりばり関与してるくらいだぜ。何か問題が?」
……法律上は大丈夫なのか?
いやでも、色々と問題な気がするのはオレだけだろうか。
そもそも夫婦のあれやこれやをこんなところで話さないでほしい。
いや、正直興味はある。
でも目の前に実物がいる場合、目のやりどころに困るだろう。
いやいや、そういう問題じゃないのか?
「咲先輩、豪先輩」
一つ息を吐いてから、悟郎さんが二人に声をかける。
「何?」
「んだよ」
「もう少し、恥じらいをもってください」
「恥じらいぃ? 面倒なこと言うわねぇ。でも、しょうがないなぁ。悟郎ちゃんの頼みだから、聞いてあげる。お団子のお礼も兼ねて。じゃあ、恥じらいをもって果実を探しに行きましょうか」
いや違うだろう。
恥じらうのはそこじゃない。
「おう、団子もなくなったしな」
包み紙の上には、相変わらず大量の串。
オレの分がないじゃないか、このやろう。
「言っても無駄だったかな」
ぼそりと悟郎さんが呟く。
「ああああたしっ、きょきょきょうはこの辺で失礼しますぅぅ」
小原さんが鞄をつかむと猛ダッシュで三Aの教室を飛び出して行く。
オレは疲れ果ててため息を吐いた。
「からかうの、やめてやったら?」
「楽しいのにね、Woo Futsal」
「ウー フットサル?」
「略してウー・フット」
「ゲームじゃないか!」
家で体を動かしながらできるという、最近流行りのゲームだ。
「そうよぉ。毎晩汗だくなんだから」
「始めると寝られねえんだよな」
オレは脱力して机に両手をついた。
――なんだ、ゲームか。
「なになに? なに想像してたのかしらぁ?」
咲先輩がにやりと笑う。
「まあ、ありがちなオチですよね」
悟郎さんが冷静に言う。
「悟郎ちゃんだって、変な想像したんでしょう?」
「ノーコメントで」
「おい、とろこであの子、放っておいていいのかよ?」
赤眼鏡が開け放たれたドアを眺めて言う。
「マコちゃん、フォローしてあげて」
「断る」
「即答かよ」
「オレは関係ないからな」
「関係あるじゃないの。眼鏡仲間」
「それだったらここにいる連中全員そうだろ」
「クラスメイトっていう点で、マコトくんが頭一つ分リードかな」
「悟郎さんまで、そんなこと言わないでくださいよ」
「つべこべ言ってるんじゃないわよ! マコちゃんの処罰はまだ検討中なんですからね。わたしに逆らうとひどい目にあうわよ。はい、さっさと行って連れて来ること。わたしたちはいつもみたいにパトロールに出てるから、適当に誰かの携帯に連絡して頂戴ね」
びしっ、と咲先輩から命令が下される。
オレはため息を吐いてから天を仰いだ。
「とっとと行ってこいってよ」
「がんばってね」
赤眼鏡と悟郎さんの言葉に押し出されるようにして、オレは多目的室をあとにした。




