17 追い詰められたふたり
どこから仕掛けてくるのか。
オレはいつでも刀を出せる状態で、気配を探る。
相手は空に浮けるし、遠距離攻撃も可能だ。
対する俺は近接戦闘のみ。
尚且ついくら真剣勝負とはいえ、桃を殴るような真似はオレにはできない。
後ろかっ!
素早く身を返す。
頬を花びらの刃がかすめた。
ひやりとしながらも、動きを止めるわけにはいかない。
桃の気配は既に移動している。
次はどっちだ?
神経を研ぎ澄ませていると、再度銃声が聞こえた。
まさか。
悟郎さんは負傷している。
綾子さんと一緒に戦線離脱しているものとばかり思っていたのに。
集中が途切れたその瞬間、くすりという笑い声がすぐ傍で聞こえた。
オレはぎくりとして視線を戻す。すぐ目の前に桃の顔があった。
「本気を出してって言ってるのに」
桃が目を眇める。
「でも藤が……」
ちらりと桃が藤のいる方角に目を向ける。
オレもそれに倣う。
藤は弓を手にした咲先輩と対峙していた。
藤の後方には右手だけで拳銃を握った悟郎さんが立っている。
そしてわき腹から地を流している赤眼鏡が、藤の真横から大鎌を薙いでいた。
三人同時に攻撃したのか!
赤眼鏡と悟郎さんはどちらもかなり負傷しているはずなのに。
「終わったみたいだね」
桃の声は、ひどく冷静だった。
「桃……」
「あとはあたしだけになっちゃった。須賀くん、本気になってくれないと、あたし、誰かにやられちゃうよ?」
次の瞬間、オレは花びらに足をすくわれ、その場に仰向けに倒れていた。
身をひねって逃げようとしたけれど、桃の動きのほうが早かった。
「がっ……」
オレの首に、桃の両手がかかっている。
呼吸ができない。
オレはその手をはずそうと、桃の手を掴んだ。
けれどまるで何かで固められているように、その手はびくともしない。
「も……も……」
桃、と名を呼んだつもりだった。
「残念。ねえ、このまま須賀くんが窒息死するのと、あたしが背後から誰かにやられるの、どっちが先かな?」
まるでゲームでもしているような口調で桃が言う。
歪んだ顔は、まるで何かに堪えているようだ。
桃。おまえ、わかってるんだろ?
そう問いたいのに、声が出ない。
頭がぐらぐらする。
目の前がチカチカする。
それでもオレは桃から目をそらさなかった。
桃はわかってるはずなんだ。
オレの両手は自由だし、この距離、この時間。
何もかもが、オレには充分だということに。
「須賀くん」
桃が囁くようにオレの名を口にする。
ああ、本当に。
このまま死ねたらどんなにいいんだろうな。
桃になら、殺されてもいいのに。
なんでそれじゃあ駄目なんだろう。
なんで……。
オレは首を絞められながら思った。
「お願いだよ、須賀くん。最期のお願いだから……」
桃はわかっているんだ。
その上で、頼んでいる。
もう、藤と蘭はいない。
ゆっくりとこちらに近寄ってくる足音が、確かに聞こえる。
オレたちは囲まれているはずだ。
咲先輩に、赤眼鏡に、そして悟郎さんに。
いよいよオレが危ないと判断したら、きっと桃は矢で射抜かれ、拳銃で打ち抜かれ、大鎌で斬られる。
桃の目に浮かぶ涙。歪んだ眉。
桃……。
オレたちは追い詰められている。
もう、どこにも逃げられないその場所に。
オレは目を閉じた。
数珠に触れる。
熱が生まれる。
その熱を握りこむ。
そしてオレは――手の中に握りこんだ熱を物質化した。




