13 生きる覚悟
「蘭は、親殺しの罪で沈んだ」
叫ぶだけ叫んで、幾分冷静さを取り戻したオレに向かって孝太がぽつりと告げた。
オレが落ち着くのを待っていたようだ。
「桃が果ノ底に沈んだのは、あいつが放火犯だからだ。信頼していた人に裏切られ絶望した桃は、裏切ったヤツの家に火をつけた。風の強い火だった。使用人を含め、三十人以上が死んでいる」
「桃が放火を……?」
「そうだ。信頼していた相手、ってのはまあ、恋人だったらしいけどな。知らないうちに詐欺の片棒を担がされてたんだ。被害者は自殺。残されたその家族は餓死」
「桃の、恋人が詐欺師だった……?」
「ああ。桃は、自分が恋人に騙されていたことを知る。しかもその恋人は、桃のことをただの手ごま程度にしか思っていなかった。まあ、散々だな。で、思い余って火を放ったってわけだ」
「桃が……」
桃が放火犯。
その事実がオレの中に澱のように凝る。
「藤は桃の家の使用人だったらしい。火をつけて自らも死のうとしていた桃を助けるために火の中に飛びこみ、死んだ。本来なら果ノ底に沈むはずのないヤツだけど、桃が沈むのなら自分もと一緒に沈んだ」
そう言われると、藤の桃に対するあの態度は納得ができる。
雑木林でオレが桃に詰め寄った時、藤は桃を助けるために現れた。
孝太の膝元に踏み込む危険を冒してまで。
「そんなことが……」
「まあ、藤みたいなのは異例だけどな。帽子団の三人は、果実の中ではましな部類だろう。果実の中には快楽殺人犯やテロリストなんかも多い。かつて、花守人が一人しかいない時代があった。果者は増加の一途をたどり、犯罪が爆発的に増えた。おれはそんな時代を知っている。自分の未熟さも感じている。だからこそ、オレは穴を塞ぎたい。今この時を逃すわけにはいかないんだ。だから、おまえを失うわけにもいかない」
「穴を塞ぐためには、花守人が五人揃わないといけないんだろ?」
「そろそろ戻ろう。結論が出ているころだろう」
オレの問いかけを無視して、孝太がオレを促す。
「結論って?」
「おまえを助けるための、だよ」
「助ける……?」
「立て。行くぞ」
今度は命令だった。
孝太が差し伸べる手につかまってなんとか立ち上がる。
「覚悟しておけよ。おまえはまだ生きるんだ」
孝太が告げるのと同時に、これまでの花吹雪の比ではないほどの花びらが舞い上がった。
吹かれた花びらがオレの口の中に飛び込んできた。
口を開けていては危険だ。
慌ててとじる。
孝太に訊きたい事は沢山あった。
けれど訊ける状態ではなかった。
視界はほぼゼロに近い。
ただ、つないだ手の感触だけが頼りだった。
覚悟しておけと、孝太は言った。
オレはただ静かに生きてきたし、自分だけが生き残ったことを後悔してきた。
たとえ命を落としても仕方がないと思っていた。
そんなオレに、一体なんの覚悟をしろと言うのか。
花守人としての覚悟だとしたら、そしたらオレは……。
花ノ界に戻って、オレは一体どうすればいい?
わからなかった。
突然、真っ白な光に包まれ、オレは目を閉じた。




