12 因縁
あの時、オレは一緒にいた誰かを見失い、名を呼ぼうと口を開いていた。
その口に花びらが次々と舞い込んで喉に詰まった。
息ができなくなったオレは確か、気を失ったんだ……。
そう、あれはオレがまだ小さな子どものころだ。
喉が痛かったのは、煙で痛めたから……そうじゃないか?
火事の現場から一人助け出されたオレは、何日も生死の境目を彷徨ったのだと聞いた。
その時か――。
「孝太っ」
見えない背中に向かって呼びかける。
花吹雪は一向にやむ気配を感じさせない。
それでも、脳内に浮かんだ情景のように、息ができなくなるほどではなかった。
「孝太っ!」
「なんだよ」
二度目に呼んだ時、すぐ傍から返事が聞こえた。
「よかった。近くにいたのか」
「おまえを放っておくわけにはいかないだろ。迷子になって帰れなくなったら困る」
「孝太、昔、おまえはオレに会ったことがあるのか?」
孝太が目をほんの少しだけ丸くした。
「ああ、あるな」
「その時も、オレは死にかけてた?」
「ああ、死にかけてたな」
「なんで……なんでオレを死なせなかったんだよ。助けるなら、オレ以外の誰かを助けてくれればよかったんだ」
「でも、彼らが――君の家族が救おうとしたのはおまえだった」
「それでもっ!」
「間に合わなかったんだよ。あとの三人は既に死んでたんだ。そんなもん、おれにはどうにもできない。せめておまえだけでもと思った。果者が火をつけるのを未然に防げなかった。おれにも責任はある」
「か……しゃ?」
今、孝太は果者って言ったか?
そんな、まさか……。
「そうだよ。おまえの家に火をつけたのは果者だった。おれたちは間に合わなかった。わかるか? つまり、そういうことなんだよ。果者を放置しておけば、犠牲者が増える。果ノ底に沈むには、それなりの理由があるんだよ」
オレから家族を奪い去ったのが、果者だった!?
そんなこと、これまでに考えたこともなかった。
果者の存在を知ったのが最近だったとはいえ、その存在を知ったあとも、果者がこれまでのオレの人生と深く関わっているだなんて、微塵も考えが及ばなかった。
孝太は続ける。
「穢れすぎて浄化しきれない場合、自ら堕ちることを望んだ場合、その理由は様々だけどな。それが花ノ界に入り込む。それはとても危険なことなんだ。それがおまえにはわかっていなかった。おれたちの仕事は、花ノ界から果実を全て排除すること。そして穴を塞ぐ事だ。果実はおまえの家族の仇でもある。それでも、おまえはあの果者を守りたいと思うのか?」
脳裏に白い腕が甦る。
耳に両親の声がこだまする。
鼻に焼け焦げる臭いが届く。
肌を灼く熱を感じる。
火事の記憶が呼び起こされる。
「オレ……、オレは……」
「マコト、しっかりしろ」
孝太の声が聞こえた。
聞こえたけれど、オレには自分で自分を制御することができなかった。
「あああぁぁぁぁ」
オレは絶叫した。




