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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第4章
53/66

11 散花界

「目が覚めたか?」


 さらさらという微かな音と共に、声が聞こえた。


 孝太? でもなんで?


 ゆっくりと目を開くと、そこには色が溢れていた。

 風に舞う鮮やかな色。


「花びら……?」


 喉から擦れた声が出た。

 耳に届く音は、花びらの散る音らしい。


 ここ、どこだ? 

 オレ、一体どうして……。


 ゆっくりと身を起こす。


 すぐ傍に誰かが立っていた。

 声を聞いて孝太かと思った。

 でも雰囲気が違う。


 大庭高校の制服ではなくて、着物を着流している。

 その足には下駄。

 それに……髪が長い。


 どういうことだ? 


「孝太……?」

「おまえ、馬鹿だなぁ」


 呆れたように言ってこちらを見たその顔は、孝太とよく似ているけれど、どこかが違った。


「え?」

「馬鹿だなぁ。いくらおれがついてたって、死ぬ時は死ぬんだぞ。それなのにまたこんな場所に踏み込みやがってさ。馬鹿だよなぁ」


 馬鹿を連呼するそいつの口調は、孝太のものだ。


「おまえ孝太……だよな?」

「? ああ。おれ、こっちの世界用の姿に戻ってたんだったな。このままだと高校生に見えないだろ? だから向こうではちょっと若い姿にしてるんだ」


「そんな……そんなことできるのか?」

「できるさ。もともとおれには肉体がないからな。おまえたちが武器を物質化するのと同じような要領で、オレは好きな姿になれる」


 そう言われても……。


 見慣れない孝太の姿に、調子が狂う。

 いやそれ以前に、さっき孝太はなんて言った?


「こっちの世界って……ここはどこだ?」


 嫌な予感がした。

 孝太の言う、向こうというのが花ノ界だとしたら、ここは……この情景は、まさに……。


「何を今更。散花界に決まってるだろ」  

「じゃあ、オレ、死んだのか……」


 死ぬ、という言葉と連動して、自分の身に何があったのかを思い出した。 

 オレ、咲先輩が放った矢に当たったんだった。


 あんなに重かった体が、今は軽い。

 それに痛みもない。赤眼鏡に痛めつけられたはずの左腕も、なんともない。


 オレはしばらく自分の両手をまじまじと見て、それからそっと自分の胸に目を向ける。

 クリサンセマム・ムルチコーレは、まだそこにあった。おかしいな。


 眼鏡をずり上げようとして、そこに眼鏡がないことに気付く。


 眼鏡がないのに、花が見える? 

 一体どうなってるんだ?


「花の見えない花ノ界とは違って、こっちは花が見えるのが普通だからな。おまえはまだ死んでない。おれがここで引き止めたからだ。肉体が死ななければ、おまえは生き返れる」

「生き返るって……でも……」


 オレの体はぼろぼろだった。

 それは意識を失う直前のことを思い出せば、嫌になるくらいよくわかる。


 あれは……あのオレの体は、もう使い物にならない。


 オレはため息を吐いた。

 それから、大事なことを訊き忘れていたことに気づく。


「桃は? あいつは大丈夫か?」

「大丈夫って、どういう意味で? それをおれに訊くのか?」

「あ……」


 孝太は……桜は、花ノ界と果ノ底を監視する者。


 あるべき場所にあるべきモノがあるように導く者。

 そんな孝太にとっては、桃が花ノ界に存在していることこそが問題なのだ。


 オレは口をつぐんだ。

 孝太が大きく息を吸い込んだかと思うと、長く吐きだす。


「おまえは本当に馬鹿だなぁ。あの子は、果実なんだぞ。花守人が果実を守ってどうするんだよ。あまつさえその所為で命まで落として。ありえない大馬鹿者だろう」


「さっきから馬鹿馬鹿ってうるさいな。咄嗟に反応しちゃったんだよ」

「だから馬鹿だって言うんだ」


 孝太が数歩、前に進む。

 足下に積もっていた花びらが、ぶわあっと舞い上がった。

 降り散る花びらとあいまって、孝太の姿を隠す。


「……っ」


 孝太、と名を呼ぼうとして、昔、同じ様なことがあったことを思い出す。


 あれはいつだった? 


 幾つもの色が溢れる場所で、オレは確かに誰かと一緒にいた。


 あれは誰だった? 

 あれはこの場所じゃなかったのか? 

 あれは……あれは、孝太だったのか?


 そうだ、さっき孝太が言っていたじゃないか。『またこんな場所に踏み込みやがって』と。


 オレは以前にもここに来た事があるんだ。

 そして、孝太に会っている。


 でも、一体いつ……。


 オレは見えなくなった孝太の背中を求めて、一歩、更に一歩を踏み出す。


 歩きながら、記憶の中を探った。

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