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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第4章
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10 舞い散る桜の花弁が

 花守人になってから、どうも運動神経が良くなっているような気がする。

 時間の経過に伴って徐々に髪の色が黄色に近づいてゆくのと比例しているようだ。


 以前よりもいくらか体が軽く感じる。

 かといって、蘭のように桁外れな跳躍力をみせたり、桃のように空に浮いたりできるわけじゃないけれど。


 ああ、そういえば、咲先輩はどうやって電柱の上に登ったんだ?


 気を抜いた瞬間、鎌の柄がすぐ傍に迫っていた。

 避けきれず、オレは左腕でそれを受ける。


「ってえっ!!」


 鈍い音がした。

 骨にひびが入ったかもしれない。

 けれどチャンスだった。


 オレは赤眼鏡に殴りかかった。右ストレートがヒットする。


「おまえ、武器を使えっつーの!」


 口の中が切れたのか、ペッと血の混じった唾を吐きながら赤眼鏡が文句を言う。


「そんなもの使ったらオレが不利に決まってるだろうが」

「気づきやがったか」

「あたりまえだっ! オレを馬鹿にしてんのか?」


 左腕の痛みに耐えながら、赤眼鏡と対峙する。

 会話をしながら時間を稼ぐ。

 ただ一つ、気になっていることがあった。


 悟郎さんがいない。

 まだ戻って来ない蘭の足を止めているのか。


 けれど悟郎さんだけじゃ蘭を止められないはずだ。

 蘭が藤と一緒なら、尚更だ。


 そして悟郎さんがそちらに行っていないのであれば、きっとすぐ近くに……。


 オレは背後を振り返った。

 ピンクの花びらで咲先輩を翻弄している桃と、隙を見て桃を射抜こうと狙っている咲先輩。


「余所見してんじゃねえぜ」


 すぐ近くで赤眼鏡の声がした。

 反応が遅れた。


 赤眼鏡の蹴りが腹部に入り、吹っ飛ばされる。 


 その時、突風が吹いた。

 壁に背をぶつけて止まったオレは、右腕を翳しながら顔を上げた。


 壁の上に藤が立っている。

 そしてその横に蘭。


 間を置かず、赤眼鏡が二人に斬りかかる。

 藤と蘭は跳躍してそれを避ける。


 桃は?


 オレは桃の姿を探した。

 そして悟郎さんが拳銃で桃を狙っていることに気づく。


 まずいっ! 


 オレは桃に向かって駆け出していた。

 体の痛みなんて忘れていた。


 遅れて気づいた桃が、咄嗟に花びらで防壁を作る。

 続く銃声。


 銃弾は花びらに遮られ、桃まで届かない。


 でも桃、それじゃあ背中ががら空きなんだ。


「桃っ!」


 咲先輩が矢を放ったのがわかった。


 オレの声に反応する桃の顔。

 その目が咲先輩を捉え、驚きに大きく見開かれる。

 一連の動きがまるでスローモーションのように見える。


 オレは桃の手を引き、咲先輩と桃の間に身を割り込ませるとそのまま桃を抱え込んだ。


 ドス、と背中に重い衝撃。


「須賀くんっ!?」


 桃の悲鳴にも似た声。


「だい……じょ……ぶ、か?」


 大丈夫か? 


 そう聞きたかった。


 オレの声は届いただろうか。

 桃がオレの名を何度も呼ぶ。


 オレの問いは聞こえなかったのか? 

 もう一度訊こうと思って口を開いた。


 何かが喉元まで上がってきた。

 思わずむせる。


 声は出なかった。

 代わりに出てきたのはどろりとして生温かいものだった。


 血……? さっきの衝撃は、咲先輩の矢が当たった際のものだったんだろう。

 

 オレの口からあふれ出した血が、桃の服を汚す。


 ごめん、桃……。


「須賀くんっ! 大丈夫っ!?」


 それはオレが訊きたい台詞だよ。


「桃、は?」


 声にはならなかったかもしれない。

 でもオレは口を動かした。


「あたしは大丈夫だよ。でも、須賀くんが……」


 よかった。桃が無事なら、それでいいんだ。


 桃の目に涙が浮かんでいるのが見えた。


 馬鹿だな。


 泣いている場合じゃないだろ。

 オレのことはいいから、早く家の中に……。


 そう伝えたかった。

 桃は泣くばかりで、ちっとも動かない。


 まるで自分のものとは思えない、重い腕を持ち上げて、その指先で桃の涙をそっと拭う。


 でも、最期に好きな子が自分のために泣いてくれた。

 それはすごく幸せなことなんじゃないのか。


 そんなことを思う。


 視界がかすみ始めた。

 桃の顔がぼやける。


 もっと見ていたいのに。


 咲先輩は? 赤眼鏡は? 悟郎さんは? 

 桃、警戒しないと……。


 周囲を確認したいのに、それもできない。


 桃が何かを言っているのに、それもいつしか聞こえなくなっていた。


 何も見えなくなるその直前、桜吹雪が見えたような気がした。

 薄桃色の花弁が舞う。


 ああ、そうか。

 もしオレが死んだら、オレの花も散るのか。

 クリサンセマム・ムルチコーレ。

 せっかく長ったらしい名前を覚えたのにな。


 ぼんやりとそんなことを思った。


 そして意識が深く深く沈んでゆくのがわかった。

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