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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第4章
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9 十の庭と桜

 オレはその笑顔を、ただぽかんとして見ていた。

 どう反応すればよいのかわからなかった。


 オレは恨まれて、憎まれているはずだった。

 それなのに、なんでこんな会話をしているんだ? 

 感情が追いつかない。


「三人で暮らせる場所を探してもらってたんだ。ようやく見つかったらしいから、この家ともさよなら。須賀くんとも、さよならね」


「どこかへ行くのか?」

「だって、ここにはいられないでしょ? 遠くに行くんだよ。大庭(おおば)の桜の監視を逃れられる場所まで」


「大庭の桜って……孝太のことか?」

「そう。桜は十人いて、十の地区(庭)を分担して監視しているんだって。ここは神谷くんの地区」 


 初めて聞いた。


「桜って一人じゃないのか?」


 桃が髪を揺らして頷く。


「うん。一人で監視するには、二つの世界は広すぎるから。藤が開けた果ノ底の穴は、この近く……大庭の桜のお膝元につながっているの。だからこの近辺には果実が多いのよ。その穴を塞がれると他の果実たちが困るから、あたしたちはずっとここに留まってたんだ。でも、もうしばらくはその心配がなくなったから、どこにでも行けるの」


 オレには桃の言っていることがよくわからなかった。


 心配がなくなった? それはどういうことだ?


 そう問いかけようとした時、背後に人の気配を感じた。

 桃の目が見開かれる。


 振り向いたオレの目に映ったのは、大きな鎌。

 咄嗟に片手で桃を突き飛ばし、もう片方の腕で大鎌の柄を受け止める。

 手の中のものを気にする余裕はなかった。


 パリン、と小さな音がした。

 はっとして足下に目を向ける。


 ついさっきまでオレの手の中にあった、ガラスのキリンが落ちていた。

 長い首がポキリと折れて、四肢も砕け散っている。

 桃を突き飛ばした時に落下したんだ。


 ああ……。


 オレはほんの少しだけ目を伏せ、それから赤眼鏡を睨みつけた。


「どういうことだよ!」

「ちゃんと伝えただろ? いよいよだって、なっ!」


 赤眼鏡が鎌を強引に振る。

 オレはその柄から手を放し、赤眼鏡から距離を取る。

 ちらりと桃を見ると、その目は先ほど砕けたキリンに釘付けになっていた。


「桃っ。逃げろ。家の中に入るんだっ!」


 オレの声にはっとしたように、桃が顔を上げる。

 すぐに地を蹴り、家の塀を飛び越えて家の敷地内に入ろうとする。


 その時、白いものが視界に映った。

 敷地ぎりぎりにある電信柱の上に立ち、そこから弓で桃を狙ってる。


「桃、後ろっ!」


 桃が壁に片手をついて方向を変える。

 その背をかすめるように矢が通過した。

 桃は敷地内に逃げ込めず、オレのすぐ後ろに着地した。


「何してんだよっ!」


 オレは咲先輩に向かって怒鳴った。


「何度も話したと思うけれど、これがわたしたちのお仕事なの」


 咲先輩が電信柱の上からにっこりと笑って告げる。


 わかってる。それはわかってるけど……。


「もう少し待ってくれよ」


「待てないわね。うちのお庭衆もすぐ傍に控えているわ。今、ここで勝敗をつけるしかないの。さあマコちゃん、そこをお退きなさい。豪の鎌と悟郎ちゃんの銃弾は対果実用の武器だけれど、わたしのこの矢は普通の矢よ。受ければもちろん傷つくわ。急所に当たれば、死ぬわよ。残念ながら、わたしには果実を還すためだけの武器がないの、ごめんなさいね」


 それは意外な事実だった。

 あれだけ偉そうなんだから、対果実用の武器もさぞかし立派なんだろうと、そう思っていたのに。


 でもそんなのはどうでもいいことだ。


「オレは退かない」


 桃を背後に庇いながら、咲先輩と赤眼鏡の二人を睨みつける。 


「大丈夫。あたしも戦うよ」


 後ろから桃の小さな声が届いた。

 見ると桃のまわりを、ピンク色の花びらが舞っている。


 花びらは、桃が手に持ったバッグの中から噴き出している。


「退かねえっつーんなら、強引にでも退かせるしかねえよな」


 赤眼鏡がオレめがけて鎌を薙ぐ。


 鎌の刃は怖くない。

 果実以外にとって、あの刃は飾りのようなものだ。


 それよりも厄介なのは柄のほうだ。

 物質化した柄は、棒と同じ程度の威力はある。

 いや、まさに棒を相手に戦っていると思ったほうがいい。


 一方、オレの武器は一瞬しか物質化できず、人体に有効なのは短い柄の部分だけ。

 不利すぎる。

 というか、柄対柄の戦いってどうなんだ?    


 オレは柄の部分だけを意識して避けながら、どう戦うべきか考えていた。

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