5 襲来
ドンドンドンと激しい音と共に家が揺れた。
オレは弾けるように顔を上げた。
いつの間にかうとうとしていたようだ。
窓の外はすっかり暗くなっている。
曇天の暗さではなく、日が沈んだあとの、夜の暗さだ。
街灯の弱々しい明かりが微かに届いている。
時計を見ると八時前だった。
音の正体は玄関のドアを叩く音だ。
ノックなんて可愛らしいもんじゃない。
殴りつけているというのが相応しい。
一体誰だ? いや、それが誰であっても近所迷惑だ。
こんな時間に騒がれたら、苦情がくる。
オレは重い腰を上げた。
玄関に行き、のぞき穴から外の様子を窺おうとしたら、そこに大きな目があってびっくりした。
「うおっ!」
オレは思わず声を出して飛び退いた。
「団子、食べるわよ」
へ?
ドアを外から聞こえた宣言に、オレは耳を疑った。
「ここにある団子、わたしが食べるわよ? 悟郎ちゃんてば、わたしに内緒でマコちゃんに貢いでいたのね!」
咲先輩だ。疑いようもなく、咲先輩だ。
さっきのオレの声が外に聞こえていないっていう可能性はないだろうか。
オレは思い切り居留守を使いたい気持ちになった。
こんなことなら、悟郎さんが来た時にドアを開けていればよかったかもしれない。
まさか団子を置いてくれていたなんて……。
「ちょっとマコちゃん、聞いてる? 聞いてるわよね。さっき声が聞こえたわよ。さあ、ここを開けなさい。開けないと蹴破るわよ? わたしはやると言ったらやるわよ。もちろん、弁償なんてしませんからね。おーほほほほほ。修理代は自分で工面することね。うふ」
ポキポキッと関節の鳴る音が外から聞こえてくる。
蹴破るのに拳は関係ないと思う。
――なんてつっこんでいる場合じゃない。
オレはすぐさまドアを開けた。
そこには、拳を引いて今にもドアに殴りかかろうとしている咲先輩の姿があった。
ああ、蹴破るという脅しのほうが間違っていたのか。
咲先輩はドアを殴りつける気満々のようだ。
白い眼鏡をかけて、首からはチェーンのついた青い眼鏡をぶら下げた、いつもの咲先輩がそこにいた。
辺りを見渡したけれど、赤眼鏡の姿はない。
「あら」
拳を引いたまま、咲先輩が呟く。
「あの……ええと」
「病んでるわね」
咲先輩がぽつりと呟く。
「へ?」
「とりあえず、喰らっておきなさい」
頬に衝撃があった。
まさか美少女からパンチを喰らうとは思っていなかった。
オレは痛みに顔をしかめながら、よろよろと後退する。
眼鏡をはずしていてよかった。
「なあにこのじとっとした空間はっ! ありえない。ありえないわよ! それになんか臭うわね……」
フンフン、と咲先輩が鼻を鳴らす。
「男の部屋に躊躇なくあがりこむほうがありえないだろ……」
オレは痛む頬に軽く触れた。
喰らった一撃は結構な威力だった。
痣になるかもしれない。
オレの呟きに、咲先輩の目がキラリと光った。
え?
何か言い返すのかと思ったら、無言のままずずいとこちらに近寄ってくる。
「ちょっ、寄って来んなよ!」
「マコちゃん、何日お風呂に入ってないの?」
「何日も入ってないよ! 悪かったな! 関係ないだろ」
何もする気にならなかったんだよ!
「関係ないわけないでしょうが! こんな美女が訪ねてきてるのよっ。すぐ! 今すぐにシャワーを浴びて来なさい。これは命令よ。トリプルGのリーダーであるわたしの命令です。Go!」
咲先輩が玄関わきのドアを指して命令を下す。
いや、そこは便所だけど……。
「Go!」
再度急かされて、オレは渋々風呂に向かう。
ついでに殴られたところを水で冷やしたほうがいいだろう。
風呂のドアを開けながらちらりと背後に目をやると、咲先輩が便所のドアとこちらのドアを見比べて、しまった、という表情を浮かべていた。




