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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第4章
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2 過去

 あの日、オレと孝太が学校に戻ると、咲先輩たちがプールサイドで待っていた。


 蘭には逃げられたらしい。

 悟郎さんと赤眼鏡の二人がかりで尚、仕留められなかったということだ。


 囮だったんだろう、と赤眼鏡が言っていた。

 蘭が現れたら、悟郎は彼女を追わずにはいられない。

 近くにいれば、赤眼鏡だって協力するだろう。


 帽子団の一人を倒すチャンスなのだから。


 蘭は二人をひきつけるだけひきつけて、逃げた。

 戦闘にもちこめれば勝てた、とは赤眼鏡の言だ。


 小原さんのことは、孝太が咲先輩たちに伝えた。

 帽子団の一人の正体が明らかになったという事実を冷静に捉えているようだった。


 そしてその日以来、ぱったりと果実を見かけなくなった。

 果実に一体何があったのか。

 帽子団はどうしているのか。


 また潜伏するつもりなのかもな、と赤眼鏡がつまらなさそうに言っていた。


 ……つまり、もう姿を現さないってことか?


 綾子さんと小原さんの肉体を手に入れるために現れて、用が済んだからまた身を隠す? 

 それ以外の果実は、肉体を得るのを諦めるのか? 

 

 それとも、少し時間をおくだけなのか。


 オレにはわからなかった。





 アパートの二階。

 一番奥の部屋まで進む。


 たたんだ傘をガスメーターに引っ掛ける。

 ポケットから取り出した鍵を使ってドアを開けて室内に入った。


 暗い空間。背後で閉まるドア。

 雨音が遠くなる。


 ガサリ、とついさっき買ってきたコンビニ弁当の入った袋がドアに触れて音をたてた。


 オレは靴を脱いで、部屋に上がる。

 手前にトイレと風呂。廊下に狭い台所。奥に六畳の部屋が一つ。

 ガラスのテーブルの上に袋を、鞄をベッドの上に放り投げて、息を吐き出す。


 制服のネクタイを緩めながら窓の外に目を向けた。


 雨は止まない。


 オレは窓のすぐ傍の壁に背を預けて、座り込んだ。


 テレビの横に置いてある写真が目に入る。

 天気が悪いせいで外の明かりが入らず、部屋の中は暗いままだ。

 写真はよく見えない。

 けれど、そこに写っているものは簡単に思い浮かべることができる。


 仲の良さそうな若い夫婦と、楽しそうに微笑んでいる女の子。

 そして女の子よりも年下の、活発そうな男の子。


 両親と姉。それに小学生のころのオレだ。

 今はもういない、オレの家族。


 オレのせいで命を落とした、哀れな人たち。


 天井を仰ぐ。後頭部が壁にぶつかる。

 オレは目を閉じた。


 燃え盛る炎。行けと叫ぶ父さんの声。早くと急かす母さんの声。

 そしてオレを突き飛ばした、姉さんの細い腕。


 目を閉じれば瞼の裏に甦る光景。

 もう十年も昔のことだ。


 その後、オレは祖母の家に身を寄せることになり、高校入学と同時に家を出た。


 一人暮らしは自由で、居心地がよくて、満足している。

 それなのに孤独がオレを苛む。

 オレだけが生き残ったことを。

 オレの我がままのせいで、家族が犠牲になったことを。


 火災の原因は放火だった。

 理由は逆恨み。

 ある事件の裁判で、証人として出廷し、被告に不利な証言した父さんを逆恨みしたやつが出所後に復讐のため、うちに火をつけた。


 オレは何もわかっていなかった。


 友達に借りたゲームをまだ返していなかった。

 オレの次に借りるヤツから、早く回せと急かされていた。

 だから失うわけにはいかないと、そう思ったんだ。


 暗い中、ゲームを探し出すのに手間取った。

 早く逃げろという声に逆らって探し続けた。

 オレを探していた両親は逃げそびれ、オレを外まで連れて行こうと手を引いてくれた姉さんは、あともう少しというところで、上から落ちて来た梁の下敷きになってしまった。


 オレの手には、なんとか見つけ出したゲームソフトだけが残った。

 それを友達に渡したあとの、オレの両手は空っぽだった。


 オレが早く逃げていれば、みんな助かった。


 ゲームなんて新しいのを買って、謝罪と一緒に返せばよかったんだ。

 みんなの命を犠牲にしてまで守らなければならないものなんかじゃない。


 オレは自分の行動がどんな結果を引き起こすのか、そんなことすらわかっていなかった。


 事件は話題になって、生き残ったオレにも注目が集まった。

 祖母の家に身を寄せたあとも、あの事件の生き残りという目で見られた。


 オレは特別な目で見られるのが苦痛になって、目立たないように過ごすようになった。

 他人には関与しない。

 余計なことはしない。

 必要最低限のことをやっていればいい。


 そうして、オレは静かに毎日を送っていた。

 つい最近まで。当たり前のように。


 それなのに……。


 赤眼鏡たちに会って、オレにも何かができるような気がしていたのか? いつの間にかつけ上がっていたんじゃないのか? オレにも誰かを助けることができる、なんて。


 思い上がりも甚だしい。

 だって、そうだろ?

 そのせいでまた、誰かを犠牲にすることになったじゃないか。


 小原さんはこれまでと同じ生活を送ることができなくなった。

 あんなに、楽しそうに笑っていたのに。

 あんなに、普通に毎日教室で顔をあわせていたのに。


 仕方がない。彼女は果者だった。

 果者は果ノ底に還さなければならない。


 現に、これまでにオレは幾つかの果実を斬り捨てた。

 果者が人間に戻る瞬間を見たこともある。


 でも、本当に? 本当に仕方がないのか?


 果実は人間の肉体を乗っ取る。

 それは許されることじゃない。わかっているのに……。


 オレは写真の前に置いてある小さなキリンを見た。


 小原さんとお揃いの、ガラスのキリン。

 彼女はオレが渡したキリンをどうしたんだろう。

 もう、とっくに捨ててしまったかもしれない。


 オレは苦笑した。馬鹿みたいだ。


 何やってんだ、オレ……。


 暗い部屋に、オレの笑い声だけが響いていた。

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