3 誕生日おめでとう
マコちゃんてなんだ。
なんでオレが赤眼鏡にマコちゃん呼ばわりされなければならないのか。
「須賀くんの知り合い?」
隣の席の小原さんが、心配そうな顔でオレを見上げている。
小原さんは小柄なので、オレの胸のあたりに頭がある。
小さな頭に大きくて黒目がちな瞳が印象的だ。小動物っぽくて思わず保護欲をかきたてられる。
その瞳に今、オレが映っている。
知り合いかどうかって?
もちろん知り合いのわけがない。
そう伝えようと口を開いた時。
「昨日できなかった、マコちゃんの誕生日パーティーをしようと思ってさ。いいだろ?」
赤眼鏡がオレに向かってにやりと笑った。
「須賀くん、昨日が誕生日だったの?」
小原さんが目を輝かせて訊いてくる。
「え? あ、うん。まあ、そうだけど……」
「誕生日パーティーだって、よかったね!」
「え? いや、それはどうかな……」
「素敵だと思うよ。おめでとう!」
ああ……小原さんの笑顔がまぶしい。
まさか小原さんからオレの誕生日を祝う言葉をかけてもらえるとは思っていなかった。
その言葉が心に沁みる。
――沁みるけれど、今のこの状況下においては、できればオレの誕生日なんてスルーしてほしかった。
でも、心から祝福の言葉を贈ってくれている彼女に、そんなことを言えるはずもない。
「……ありがとう」
オレは何かに負けたような気持ちで、礼を言った。
「え、おまえ昨日誕生日だったの? おめでとさん」
神谷孝太がオレの肩をぽんと叩く。
好青年然としたその風貌と爽やかさが女子から絶賛されているクラスメイトだ。
これまでのオレならそんな目立つヤツは敬遠してきたけれど、何故かこいつとは馬が合うので時々話をしたりする。
けれどもちろん、誕生日を教え合うような関係ではなかった。
「ああ、まあ……」
孝太の言葉をきっかけに、教室のあちらこちらからおめでとう、の声が上がる。
いや、別にめでたくなんかないから、と言える状態ではなくなってしまった。
なんなんだ、この居心地の悪さは。
せっかく地味に日々を送っているというのに、こんな風に目立つのは非常に不本意だ。
それもこれも、あの赤眼鏡の所為だ。
今日、こいつがオレを迎えに来たことはここにいるみんなが知っているから、ついて行ってもそれほどまずいことにはならないないだろうと判断する。
やばいことをするつもりなら、もっと目立たないようにオレを連れ出すはずだ。
何より、一刻も早くこの状況から脱したかった。
「ありがとう、ありがとう」
オレはははは、と乾いた笑い声でみんなに応じながら、赤眼鏡が待ち構えている廊下へと向かう。
小原さんと孝太が笑顔で見送ってくれるのが、なんともいえず虚しい。
「嬉しいぜ、応じてくれて」
廊下に出ると、赤眼鏡が、がっはっは、と笑いながらオレの肩に手をまわして歩きだす。
「さっさと終わらせてくれ」
「つれねえこと言うなよ、マコちゃん」
「二度とマコちゃんて呼ぶな。次呼んだら、帰るからな」
オレは赤眼鏡の手を払いのけた。
「はいはい。わかったって。もう呼ばねえから機嫌直せよ。まるで毛を逆立てた猫みたいじゃねえか」
くくっと赤眼鏡が笑う。
ああ、そうだろうさ。おまえの前じゃあ、どうせオレは猫くらいにしか見えないだろうよ。
オレは抵抗するのもばからしくなって、大きなため息を吐いた。




