10 藤
「どうするの? あははは。須賀くん、花守人になったんだね。残念。すごく残念だよ。せっかく眼鏡を褒めてあげたのに、それは敵になった証だったんだね。もうお仕舞い。あたしたちはただのクラスメイトには戻れない。そうでしょ?」
小原さんは笑ったあと、鋭い目をオレに向けた。
前髪と横の髪がピンで留められている。
おでこがキレイだな、なんてふと思った。
そんな場合ではないのに。
「オレ……オレは……」
「斬る? ねえ、須賀くんは果実を斬るんでしょう? あたしを斬るの?」
ずい、と小原さんがオレに詰め寄る。
身じろぎした拍子に、指にひっかかっていたウィッグが地面に落ちる。
すぐ傍に小原さんの顔がある。
でもオレは刀を出す準備をしていない。
「ねえ、どうするの?」
オレはごくりと唾を呑み込んだ。
小原さんはオレを見上げたまま動かない。
オレはその視線を受け止める。
まわりはとても静かで、オレたちは見詰め合ったまま、ただ時間だけが過ぎてゆく。
オレは一体、どうすればいい?
その疑問だけが脳内をぐるぐると回っている。
小原さんが果者だった。
ついさっき、自分が小原さんを斬るつもりだったことを思い出す。
あの時は小原さんが果者だとは思っていなかった。
むしろ小原さんを助けるために斬ろうと考えたのだ。
けれどもしそれを実行していたら、今ここにいるのはきっとオレの知っている小原さんではなくなっていたのだ。
そこまで考えると、恐ろしくなって思わず身震いした。
なんてことをしようとしてたんだ、オレは……。
オレの知っている小原さんは、果者だった。
ヘッドドレスの少女。おそらく、帽子団の一人。
この子は果者だ。でも、他の果実とは訳が違う。
オレはこの子のことが……。
小原さんの視線は揺るがない。
何か言わなければと口を開いたその時、突風が吹き抜けた。
「小原さんっ」
咄嗟に、突風から小原さんを守ろうと手を伸ばす。
自分のほうに引き寄せようとしたけれど、そこに小原さんの姿はなかった。
「また会いましたね。この子に、何か御用でしょうか?」
風に紛れて、聞いたことのない声が届く。
それは突風の中だとは思えないほどはっきりと聞こえた。
誰だ?
オレは細く目を開けて、声のしたほうを見る。
黒い服が見える。
やがて風がぴたりと止まった。
見ると、シルクハットをかぶり、片手に杖を持った青年が立っていた。
小原の肩にそっと手を添えている。
街で見かけた青年だ。
「おまえは……」
「失礼いたしました。私は藤。そう名乗っています」
そう言うと、藤はシルクハットを取って、流れるような仕草で一礼してみせた。
その際、頭頂部がわずかに青紫色に染まっているのが見えた。
藤。確かに、その青年の胸には藤の花が見える。
「オレは須賀」
「花守人の須賀さまですね」
藤がシルクハットを再び頭に乗せる。
「ああ。おまえは果実なのか?」
「そうですよ」
藤はあっさりと頷いた。
「小原さんも……?」
「はい」
はっきりと肯定され、心のどこかで信じたくないと思っていたその気持ちが粉砕された。




