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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第3章
38/66

9 髪の色

 あの果実は、小原さんの体を乗っ取るつもりじゃないのか?


 オレは小原さんまであと数メートルというところで、足を止める。


「小原さん? ……あの、授業は?」

「サボったの」

「え? あ、そうだよな。オレもなんだ」


 今度は二人一緒にサボったってわけか。

 目立ってるかな……って違う。こんな会話をしている場合じゃない。


「あの……小原さん、だよね」

「そうだよ、須賀くん」

「それ……果実、見えるの?」

「見えるよ」


 すんなりと肯定された。


「ええっと……なんで?」

「なんででしょう」


 くすりと小原さんが笑った。

 そして、ぽん、と手の平に乗せていた果実をこちらに放る。


「えっ!?」


 オレは握ったままだった拳を反射的に開いていた。

 刀が出現するのと同時に、その果実を斬り捨てる。


「小原さんっ!?」


 目の前から小原さんが消えていた。

 視線を巡らすと、雑木林の中に駆け込む後ろ姿が見える。長い黒髪が木々の中に消える。


 どういうことだっ!?


 オレは駆け出した。

 プールサイドのフェンスを越え、更に学校の敷地を取り囲んでいるフェンスもよじ登って飛び越える。


「小原さんっ!」


 オレは猛ダッシュで小原さんのあとを追った。


 どこだっ!? どこに行った!?


 これまでにこの雑木林に踏み込んだことはないけれど、広範囲にわたって続いているはずだ。

 

 どっちに向かったんだ?


 直進すると裏山に入ってしまう。

 右手に進めば用水路が流れているはずだ。左手には墓地がある。


 その横を抜けると、最寄り駅とその周辺の小さな商店街がある。


 その時、ちらりと半透明な球体が視界をかすめた。

 すぐに木の陰に見えなくなったけれど、果実に違いない。


 正面だ。たぶん小原さんも一緒だろう。

 オレはスピードを上げた。


 相手は小柄な女の子だ。コンパスからして違う。 


 見えた!


 制服のスカートの裾と長い黒髪が木の間から見え隠れする。


「小原さんっ!」


 オレは彼女の名前を呼ぶことしかできない。


 小原さんには果実が見えていた。

 小原さんは果実を受け止め、放り投げた。


 小原さんは、何者なんだ? 

 まさか……でも、髪は真っ黒だ。

 違う。果者じゃない。


 果者なら、頭頂部がピンク色に染まっているはずだ。


 もしかして……あの日、街で見かけたゴスロリの女の子も小原さんだったのか? 

 彼女を追っていて、果実に遭遇したんだ。


 でも、髪型が違う。彼女はもっと髪が短かった。髪が……。


 小原さんとの距離が縮まる。

 彼女のすぐ隣につき従うように転がっていた果実が、突然方向転換してこちらに向かってきた。


 オレは既に拳を握り締めている。

 立ち止まる必要はない。

 オレは走りながら刀を出現させて、一刀のもとに斬り捨てた。


「小原さん!」


 何度名を呼んだのかわからない。

 彼女は振り返りもせず、ただ逃げるだけだ。

 小原さんはオレがすぐ後ろに迫っていることに気付いているはずだ。


 それなのに、どうして止まってくれないんだ? なんで逃げる必要がある?

 どうして!


 小原さんの手首を掴んだ。

 初めてこちらを振り返った小原さんが、オレの手を解こうと抵抗する。


 オレはもう片方の手も掴んで、すぐ後ろにあった木に押さえつけた。

 彼女の細い腕じゃあ、オレの手はびくともしない。


「痛いっ」

「ごめん、小原さん。でも……」

「放して」


 小原さんの黒目がちな目がオレを見上げている。

 オレは首を横に振った。


「だって、放したらまた逃げるだろ?」

「それは……」


 小原さんが視線を逸らす。


「なんで逃げるんだよ」

「なんで追いかけてくるの?」

「知りたいんだよ、小原さんのことが」

「あたしは知られたくない」

「どうして!」


「じゃあ、知ってどうするの?」

「どうって……」

「ねえ、どうするの? もし、あたしが須賀くんの敵だったら? そしたら須賀くんはどうする?」

「敵って……」


 オレの頭の中にある疑念が強くなる。


 でもオレはそれを否定したいんだ。だから……。


 ふいに、小原さんがオレの手を振り解いた。

 いつの間にかオレの力が弱まっていたらしい。

 彼女の体がオレと木の間からすべるように逃げ出す。


「待って!」


 オレは咄嗟に小原さんを捕まえようと手を伸ばした。

 その手が小原さんの髪にひっかかる。


「あっ」


 小原さんが頭を押さえた。

 オレの手にひっかかった髪はとれない。

 代わりにずるりと、小原さんの髪が落ちる。


「えっ!?」


 オレは驚いて自分の手にぶら下がっている髪を眺めた。


 髪の裏側が見えている。ウィッグだった。


 小原さんは両手で頭を抱えて立ち止まっている。


「……っ!」


 髪の長さがとても短い。そう、顎のラインまでしかない。


「あたしをどうするつもり? 須賀くん」


 小原さんが涙で潤んだ瞳で、オレを見る。

 オレは声が出なかった。

 小原さんが頭を抱えているその指の隙間から、薄い桃色の髪がのぞいている。


「それは……」


 なんとか絞り出した声は、ひどくかすれていた。

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