8 プールサイド
既に手の平に熱を掴んでいる。だいぶんコツが掴めてきた。
着地と同時に、真上から果実を刀で突き刺した。果実を斬った時特有の手ごたえを感じる。
果実は音も立てず、弾けて消える。
あっけない。この間も思った。
果実はこんなにもあっけなく壊れてしまう。
粉々になった果実の欠片は、輝きながら果ノ底に引き戻される。
果実はとても儚い存在なのだ。
もちろん、本来こちらの世界にあってはならない存在なのだから、それは当然なのかもしれないけれど。
オレは息を吐いて立ち上がった。
まだ刀の維持は難しい。短い時間で物質化させられるようになっただけでも、随分ましになったとは思うけれど。
この土日にこっそり練習した成果だ。
なんにせよ、無事果実を還せてよかった。
周囲を見渡す。人影はない。
プールと体育館の間の細いスペースだった。
三人並んで歩くのがぎりぎりくらいの幅しかない。
ズボンのポケットから携帯を取り出して、時間を確認する。授業が始まって、まだ十分も経っていない。
戻ろうか、それともサボってしまおうか。
考えていると、目の前を半透明の球体が横切って行った。
プールサイドだ。
プールを囲むフェンスの向こう。
ちょうどオレの目線にあるプールサイドの上を、果実が通り過ぎたのだ。
果実を一つ還してすっかり油断していたオレは、慌ててその果実を目で追う。
なんでプールに?
オレはフェンスに手をかけて登ると、勢いをつけて跳び越えた。
プールには濁った水が溜まっている。
プール開き前の掃除が大変そうだな、なんて考えながらも、果実を追ってプールサイドを走る。
そして果実の転がる先に人の姿があるのに気づき、オレは叫んだ。
「逃げろっ!」
オレの声に振り返ったのは、小原さんだった。
オレの姿に気づいた彼女が、オレを凝視している。
けれど逃げる気配はない。
なんでこんな場所にいるんだ!?
「早くっ!」
小原さんは答えない。動かない。
果実が小原さんのすぐ近くまで迫っている。
オレと果実の距離は、まだ十メートル近くある。
「小原さん――っ!!」
オレは拳を握り締めた。
熱は既に掴んでる。けれどまだ届かない。
果実が跳ねる。
小原さんの頭上にゆっくりと……ゆっくりと落下する。
間に合わないっ!!
果実が小原さんの体に入った直後に斬るしかない。
この間悟郎さんがやったように。
大丈夫、この武器で斬られても、痛くも痒くもないんだから。
オレは拳を開くタイミングを計る。
落下する果実。
小原さんはそれをじっと見上げている。
その胸には相変わらずピンク色の花が咲いている。
そして小原さんは果実に向かって腕を伸ばした。
「……え?」
オレは思わず開きかけた拳を握り直していた。
果実は小原さんの手の平に乗った状態で、ぴたりと動きを止めていた。




