表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第3章
36/66

7 黒い影と果実

 休憩中、オレは一人で廊下を歩いていた。

 トイレに行った帰りだった。


 オレは積極的に交友関係を広げようとしない代わりに、周囲に近寄り難い雰囲気を醸し出したりもしない。

 話しかけられれば応えるし、用があれば僕から声をかることもある。


 嫌われているわけではない(と思いたい)けれど、誰かがクラスメイトの名前を順に挙げたとき、最後からニ、三番目くらいに思い出してもらえるくらいのポジションがいい。


 ずっとそう思ってきた。


 昔、ひどく目立ってしまったことがある。

 それはもちろんオレの本意ではなく、オレをそんな状況に追い込んだのは他人の同情だった。


 オレにはそれが耐えられなかった。嫌悪していた。

 もう、人目につくのは懲り懲りだし、そのせいでオレの過去まで暴かれるのもごめんだった。


 そんなことになるくらいなら、オレは一人でずっと目立たず静かに過ごしたかった。


 ――だからこれはオレが望んだ結果だ。


 嫌われるのは困る。

 悪評がたつと困るからだ。


 でも、そういえばさ、と気軽に誰かの口の端にのぼるのも困るのだ。

 どんな形であれ興味をもたれるということは、誰かがオレの過去に近づく可能性を高めることだから。


 オレはなんとはなしに窓の外を眺めながら歩いていた。

 と、ふいにオレの視界を黒い物が横切った。


 なんだ? 今の。


 オレは窓を開けて、身を乗り出すけれど、そこには何もない。

 首をひねって上を見ても、青空が広がっているだけだ。


 鴉か何かか? と考えて、そういえば前にもこんなことがあったことを思い出す。


 ゴスロリの女の子を見たあとだ。

 果実を還して、元の道に戻ろうとした、あの時。


 そういえば小原さんに確認するのを忘れていた。

 朝はキリンを渡すのでいっぱいいっぱいだった。

 教室に戻ったら訊いてみよう。


 顔をひっこめようとしたその時、今度は黒くない何かが動くのが見えた。

 下だ。地面の上。


 オレは目を細めて、それが何かを確認しようとした。


 転がってる? もしかして、果実か? 


 オレはぞっとして転がる物体を目で追った。

 サッカーボール大の球体が体育館の方に転がってゆく。

 まさか学校の中でみかけるとは思っていなかった。


 見てしまった以上、このままにしておくわけにはいかない。

 いくら協力しないと宣言してあっても。

 それでもし、知っている誰かが失踪した、なんてことになったらと考えると、恐ろしい。


 ある日突然、果実に体を乗っ取られ、悟郎さんの傍から消えてしまった綾子さんのように。


 トリプルGの連中はまだ気付いていないみたいだ。

 咲先輩たちが見つけていたら、たぶん速攻で果ノ底に還していると思うから。


 オレは舌打ちをして、廊下を走り出した。


 休憩終了のチャイムが鳴る。

 これまでできるだけ目立たないように、真面目に出席してきたけれどやむを得ない。

 サボらせてもらおう。


 オレは教室の横を通過して、階段を駆け下りる。


 これから授業に向かう先生とすれ違う時だけは、体調が悪いので保健室に行くという風を装ってみる。



 ――悪かったな、小心者で。

 ところで、果実はどこに行った?


 ようやく一階にたどり着いて、辺りを見渡す。


 大庭高校の造りはありふれたもので、コの字型の校舎と、特別棟。体育館が二つと、図書館。グランド、テニスコート、そしてプールがある。


 果実はプール横の第二体育館に向かって転がっていた。

 プール際にフェンスがあって、それを越えたら校外に出る。


 その先には雑木林が広がっているだけだ。

 幸いにもこの季節はまだプールが使われていないし、目立つことはなさそうだ。


 オレは先生の目に気をつけながらプールへ向かう。

 さすがにこんな方向に向かっていたら、保健室に行くなんて言い訳は通用しないだろう。


 体育館の陰に、果実を発見した。

 たぶん、さっき見かけたやつだ。


 オレは走りながら数珠に手を添える。

 果実は暢気にころころと転がっているだけだ。

 オレに気付いていないのか、あれでも急いで逃げているつもりなのか。


 やれる。


 オレは地を蹴った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ