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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第3章
35/66

6 あっという間

 その朝、オレはキリンの入った小袋を鞄に入れて登校した。


 もちろん小原さんに渡すためだ。

 教室で渡すと目立つから、昇降口で彼女がやってくるのを待つ。


 これ、遅くなったけど小原さんへの誕生日プレゼントなんだ。よかったらもらってもらえないかな。


 台詞を脳内で練習する。

 気に入ってもらえるかな。


 これ、遅くなったけど小原さんへの誕生日プレゼントなんだ。よかっ……。


「よお。はよっ」

「え?」


 練習を邪魔されて振り返ると、孝太が立っていた。

 ついつい胸を見てしまう。相変わらず花はない。芽もない。


 人間なら、そんなことはありえないよ、と悟郎さんが言っていた。

 咲邸からの帰り道だった。


 生きているのなら種を持っているはずだから、と。そして十六年生きていれば、芽が出ないはずはない、と。

 果実に乗っ取られた体の花ですら、色を変え、成長を止めはするけれどそこに存在しているのだから、きっとそうなのだろう。


 でも、それじゃあ今目の前にいるこいつは一体なんなんだ?


 そんなことを考えていたから、反応が遅れた。


「なんだよ。変な顔して」

「あ、いや。おはよ」

「おう。何やってんだよ。教室に行かないのか?」

「ああ。オレ、ちょっと用があるから、先に行っててくれよ」

「OK。遅刻すんなよ」


 普通に会話をして、普通に歩いている。

 誰がどう見ても、生きているように見えるはずだ。

 クラスメイトたちと会話だってしている。

 間違っても幽霊なんかじゃない。


 一度、咲先輩に会ってもらったほうがいいかもしれない。


 オレは青薔薇の話を聞いたときから、もしかしたら孝太が青薔薇の持ち主じゃないかと疑っている。

 青薔薇はどれだけ探してもまだ見つからないと言っていた。


 なんらかの事情でまだ芽が出ていないだけという可能性はないだろうか。

 その種がまだ深いところに埋まったままになっているとしたら、見つからなくてもおかしくはない。


「おはよ!」

「え?」


 孝太を見送っていたら、後ろから声をかけられた。

 振り向いても誰もいない――?

 視線を下げると、笑顔の小原さんが立っていた。


「おっ、おはよう!」


 オレは慌てて挨拶を返した。


「こんなところでどうしたの?」

「いやあの……この間はクッキーありがとう。これ、お礼……っていうか、あの、小原さんの誕生日、何もあげられなかったから、遅くなったけど……」


 練習どおりにしゃべれないことをもどかしく思いながらも、とりあえずキリンの入った小袋を小原さんに手渡す。


「え、うそぉ。なんだろ? 開けてもいい?」

「ああ、うん。そんなたいしたもんじゃないんだけどさ」

「えー? ……あ! 可愛いー!!」


 小袋の中から小原さんの手の平へところりと転がり出たキリンを見て、小原さんが嬉しそうな声を上げる。


 よかった。


 実はこのガラスのキリン、素直に可愛いとはいえない顔をしているのだ。

 おそらく昨今流行りのブサカワイイってヤツに該当すると思われる。

 小原さんの携帯ストラップのキリンも同じ系統に属しているはずだ。


 正直、小原さんの反応が怖かったけど……そうか、これで正解だったか、と胸をなでおろす。


「たまたま見かけてさ。小原さん、キリン好きかなって思ったんだけど」

「うん。大好き。ありがとう!」

「どういたしまして」

「へへ。嬉しいな」


 小原さんの喜ぶ様子を見て、オレも思わず顔をゆるめる。


 その時、予鈴が鳴り始めた。


「あ、行かないといけないね。また二人で遅刻しちゃう」


 小原さんがくすりと笑う。


「この間はごめんな」


 階段から落ちた日、結局オレと小原さんは一緒に遅刻した。

 さすがに頻繁にやるのはまずい。なにより、遅刻をすると目立ってしまう。

 しかも小原さんと一緒となると尚更だ。

 変な噂が流れたら小原さんだって可哀想だ。


「この間のは、あたしが足を滑らせたんだもん。須賀くんは悪くないよ」

「いや、そもそもオレが声をかけたから」

「でも、あたしの下敷きになって助けてくれたじゃない」


 オレたちは言い合いながら、だんだん可笑しくなってきて思わず笑ってしまった。


「じゃあ、お互い様ってことで」

「そうだね」


 オレは小原さんと並んで歩き出す。

 歩きながら、小原さんはキリンの可愛らしさについて力説している。

 よほど好きなようだ。

 その一生懸命な様子がなんともいえず可愛い。


 プレゼントを渡せてよかった。

 小原さんの嬉しそうな顔が見られて、幸せな気分になる。


 しゃべりながら歩いていたのに、あっという間に教室についてしまった。

 オレは、そのことを残念に思った。

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