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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第3章
34/66

5 青薔薇

 団子を抱えた悟郎さんがやってきたのは、それから約一時間後だった。

 さっきの、赤眼鏡の電話相手は悟郎さんだったらしい。

 なんと、団子の出処は悟郎さんだったのだ。実家が和菓子屋なんだとか。なるほど。


 今日の団子はごま団子だった。

 みたらしのタレにすりごまがまぶしてある。

 今回はオレも何本かありつけた。


「手合わせか。しかも、豪さんと引き分けとはすごいね」


 悟郎さんが自ら淹れたお茶に手を伸ばす。


「あのなぁ、普通、ただの人間相手に斬りかかったりしねえだろ? 普通は斬ったらそれで終わりじゃねえか。そりゃあ油断もするっつーの」

「おほほほほ。いい勉強になったわね、豪。斬ったあとも気を抜くなってことよ。もし、一撃で仕留められないような敵と遭遇したら、あなたは果者になってたかもしれないんだから」

「ご尤も」


 赤眼鏡がずずず、と茶を啜る。


「で? なんだったかしら?」

「こいつもめでたく果実還しをやり遂げたわけだし、ま、ひととおり教えておくべきことは教えておいたほうがいいだろうって思って連れてきたんだけどよ」

「正論ね」


 咲先輩が至極当然というようにうなずく。

 オレ自身、これまで避け続けていた自覚はあるし、果実と対峙したときの後悔はまだ生々しく残っている。


「協力するかどうかはまだわからない。でも、知っていないとなにもできない。だから……」

「かまわないわ」


 自分で言っていて、言い訳がましいとは思う。

 けれど咲先輩はそんなオレの言葉をあっさりと受け止めた。


 赤眼鏡が、今日のオレの果実還しについて簡単に説明するのを、咲先輩と悟郎さんは黙って聞いていた。

 

「一般的な果実なら、もう還せるということね」


 その言い方がひっかかった。

 そして思い至る。

 あの、蘭とかいった、悟郎さんも苦戦していた相手のことを。


「ああ。あの、蘭ってやつみたいに人離れした動きをされたら、正直オレにはどうにもできないと思う」

「帽子団ね」

「帽子団?」

「ええ。悟郎ちゃんから聞いたかもしれないけれど、果者の中で特に力を持っている者が三人ほどいるのよ。シルクハットをかぶった男。白いつば広帽子の女。そしてヘッドドレスの女。三人とも果者である証拠……頭頂部の変色を隠すために帽子をまたはそれに類する物を身につけているから、わたしが帽子団って命名したのよ」

「ヘッドドレス……」


 帽子団というネーミングも気になるところだけれど、それ以上に気になることがあったせいで、つっこみそびれる。

 蘭と出会う前に見かけたシルクハットの男。そして、今日見かけたゴスロリの少女。

 特に、あの子は小原さんに似ていて――。

 でも、ゴスロリの恰好をした子なんて最近多いし、まさかな……。


「シルクハットの男は(ふじ)。彼、もう何百年も同じ姿をしているらしいけれど、なかなかの美青年でしょう。よほどあの体が気に入っているのかしらね。女性の二人のほうは、最近体を換えたみたいね」


 悟郎さんの彼女は、そのターゲットにされてしまった。


「薫、少しは言い方に気をつけろよ」

「ああ、悟郎ちゃん、ごめんなさいね」

「いえ。構いません」


 悟郎さんが淡々と応える。


「果実が肉体を完璧に乗っ取った時点でその肉体は歳をとらなくなるから、定期的に肉体を移動するほうが人間社会に紛れ込みやすいのよ。そのうちの一人が蘭。もう一人は今のところあまり出て来ないからまだわからないことだらけね」

「何百年って……果実っていつごろからあったんだよ……」

「人が存在するようになってから、ずっとよ。ただ、果ノ底に穴が開いたのは、鎌倉時代だと聞いているわ」

「鎌倉!?」


 どんだけ歴史を遡るんだ。鎌倉って平安のあとだろ? でもって室町の前だ。確か。


「そんなに昔から?」

「その穴を開けたのが、藤だって話よ。まあ、さすがに最初のころはあんな恰好じゃなかったらしいけどね」


 気の遠くなるような話だ。


「で、咲先輩の家は先祖代々ずっとあいつらを還そうとしてきたのか?」

「そうらしいわね」

「でもできなかった?」

「完璧にはね」

「それって……」


「まず、なかなか姿を現さないのよ。それに、還せたとしても穴がある限り、何度でもこちらに出てくる。穴を塞ぐには選ばれた五人の花守人が必要なのよ」

「え? でも、花守人って……沢山いるんじゃないのか? さっきの花守頭って人とか」


「昔はね、眼鏡なんかなくても視えたらしいのよ。でも、今じゃ力が弱まって、眼鏡と数珠がないと花守人なんてできなくなってしまった。花守人の花の色は、白・黒・赤・黄・青の五色と決まっているわ。そして桜様がその五色の花の中から一つずつ、花守人に相応しい花を選びだす。その花をもつ人の中から、花守人としての潜在的な能力や、転生前の功績などを考慮して花守人に相応しいと思われる人を選ぶんですって」


「その桜様っていうのもよくわかんないんだけどさ」

「花ノ界と散花界その両方を見守る方よ。秩序が保たれることを望んでいらっしゃるから、その為に動いている花守人の守護者でもある。ただ、桜様はあくまでも監視者という存在だから、直接果実に対して手を下されることはないの」


「監視者ねぇ……。その人でも、残りのひとりだっていう青薔薇は見つけられないのか?」


 さっき、白髪の老人(咲先輩のおじいさん?)が言っていた青薔薇というのが、残りの花守人の候補者の花らしい。

 

「ええ。青薔薇なんて。ただでさえ存在しているのかどうかわからないものだし、参っちゃうわよね」

「よりによって、青薔薇はないよなぁ」


 赤眼鏡が遠慮なく団子に手を伸ばす。既に五本くらい食べていると思う。


「不可能の代名詞って言われるくらいですからね」


 悟郎さんは団子を食べずに、静かに茶を飲んでいる。


「そうなのか?」

「そうなのよ。青薔薇は自然界に存在しないって言われていたくらいだから。今は青い色素が発見されて、遺伝子操作なんかのおかげで青い薔薇も作れるらしいけど。人が生まれ持つ花にはあまりないわね。というわけでトリプルGの当面の活動内容は、果実を還すことと、青薔薇を見つけだすことになるわ。積極的に協力しないまでも、一応念頭に置いておいて頂戴ね」


 咲先輩の指令が下る。

 オレは仕方なくうなずいた。


 青い薔薇。

 そういえば、あまり見ないかもしれない。

 これまで花になんか全く興味がなかったから知らなかったけど。


 オレは団子に手を伸ばそうとして、残り二本しかないことに気付いた。

 三十本くらいあったはずだ。

 オレはまだ二本しか食ってない。悟郎さんは一本も食ってない。


 オレは……オレはあの団子に手を伸ばしてもいいのか? ラスイチだったら危険だけど、あと二本ある。オレが一本食っても一本残る。それなら咲先輩も納得してくれるだろう。


「あ!」


 そんなことを考えていた矢先、赤眼鏡がさっと一本手に取って口に運んでしまった。


「んあ?」


 団子をほおばった赤眼鏡がオレの声に気づいて反応する。もう遅いんだよ!


「いや。なんでも……」


 残りの一本は、もちろん咲先輩の手に渡る。

 悟郎さんちの団子、美味かったな。今度買いに行こう。

 美味そうに団子を食べる咲先輩を見ながら、そんなことを考えた。

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