6 拒絶
失敗した。
遠ざかる須賀くんの背中を、僕は黙って見送ることしかできなかった。
せめて、須賀くんが防御だけでもできるようになってくれたらという思いが先走って、彼の気持ちを慮れていなかった。
彼の精神状態がよくはないと、わかっていたのに。
幸い、周囲に果実の気配はない。
けれど、いつどこで接近してくるかわからない。
僕は須賀くんから充分な距離をとりつつ、ゆっくりとそのあとを歩き始める。
彼がひとりで借りている部屋の周辺には、昨日のうちに護符を貼ってある。
その護符があれば、果実は近づけない。
ただし、あくまでも彼の部屋付近だけだ。離れれば、護符の効力はない。
須賀くんは振り返らない。
彼が悩んでいるのも、迷っているのも、感じている。
彼についての調査書は、咲さん経由で渡されているから、ある程度のことは知ってもいる。
それでも、僕らは彼に共に闘ってもらいたいと思っている。
受け入れてほしいと思っている。
できることなら、こんな役割を誰かに押しつけることはしたくないけれど。
そのせいで、誰かを苦しめるのは辛いけれど。
それは、おそらく、咲さんも豪さんも同じだ。
いや、あのふたりは、僕なんかとは比べようもないくらい思うところがいろいろあるだろう。
僕は、手首の黒い数珠に目を落とした。
果実を還すこの役目にはきりがなくて。
綾子さんを取り戻すこともまだできていない。
気が急くばかりで。
用水路が大きな通りと交わる。
走ってきたトラックの荷台から、果実が転がり落ちるのが見えた。
その少し雨を行く須賀くんは気づいていない。
付近に帽子団の姿はない。
僕は素早く右手に黒い拳銃を握ると、照準を果実に合わせた。
引き金を引く指が、一瞬止まる。
このまま、須賀くんがその体を果実に乗っ取られてしまったら、どうなるだろう。
そんな考えを振り払うように、慌てて首を横に振る。
どうもこうもない。
須賀くんが僕たちの敵になるというだけのことだ。
今度こそ、須賀くんに接近する果実に照準を合わせて、引き金を引く。
銃声が響き、果実が破裂する。
けれど須賀くんは足を止めない。
振り向かない。
その肩が一瞬震えたように見えたけれど、気のせいかもしれない。
背中から発される拒絶。
余計なお世話だっただろうか。
けれど僕は、僕のために果実を還した。
それだけだ。
そう、自分に言い聞かせて、僕は須賀くんの背中を追い続けた。




