1 赤縁眼鏡
「よぉ、ちょっと顔貸せよ」
突然、黒い影が行く手を阻んだ。
五月半ば。所謂五月病なる病が蔓延する季節。
先月高校に入学したものの特に部活動に参加していないオレは、さっさと帰途についていた。
正確には帰宅する前に少し寄り道をしようと、駅前まで足を伸ばしたところだった。
けれど、オレのその選択は間違っていたのか?
ゆっくりと顔を上げると、赤茶けた髪を後ろに撫でつけた男が立っている。
でかい。190センチ近くありそうだ。
体は随分と引き締まっている印象を受ける。
白いシャツの袖を肩までまくり上げているせいで、太い二の腕が露になっている。
一体なにをしてそんなに鍛えたんだ。
もしかして喧嘩かなにかじゃないだろうな。
派手な赤眼鏡をかけていて、それがかなり似合っている。
レンズの奥の目を細めて、爽やかな笑顔を浮かべている。が、上から見下ろすアングルで、こちらに思いきりプレッシャーをかけてくる。
「いや、遠慮しときます」
オレはそんな圧力に屈することなく答えて、脇を通り抜けた。
爽やかな笑顔になど騙されてなるものか。
そこに待っているのはオレを文無しへと導く一本道に違いない。
案内料として骨の1、2本サービスさせられるかもしれない。
「おい、待てよ」
「他を当たってください」
オレにそんなサービス精神を求められても困る。
「はぁ? なんでおまえの誕生日を祝うのに他を当たるんだよ。意味わかんねえぞ」
意味がわからないのはおまえだ。
……ってか今なんて言った?
「誕生日……?」
オレは振り返って赤眼鏡を凝視した。
言われて思い出したけれど、たしかに今日はオレの誕生日だ。
けれどなんでおまえがそれを知ってるんだ?
カツアゲ目的じゃなかったのかよ。
もっとやばい状況なのか、これ。
こいつ何者だ? オレのことをどこまで知っているんだ?
そもそも誕生日を祝うってなんだ。おまえに祝ってもらういわれなんかないぞ。宗教かなにかか?
次々と疑問が浮かび上がった。
でも、それを問う前にオレのセンサーは危険を察知していた。
「おまえ、須賀マコトだろ?」
「違います」
即答してオレは逃げ出した。
確かに、オレは須賀マコトだ。
なんで知ってるんだよ。オレがなにをしたって言うんだ。なんかやばいことになってるんじゃないだろうな。
ちらりと肩越しに振り返る。
幸いなことに、赤眼鏡の姿は人混みに隠れてもう見えなかった。




