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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第2章
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3 危険なことは他人任せで

「いらっしゃーい。トリプルGにようこそ。ところで今、悟郎ちゃんと話してたんだけど、あなたの名前にGがつかないのはすごく残念だわ。豪、悟郎、もう一人名前にGのつくメンバーがいたら、トリプルGになったのに」


 またどうでもいいことを……。


 教室に入るなり美少女の先制攻撃をくらって、オレは一気にMPを削られる。


「オレは自分の名前、気に入ってるんで。別の名前の奴がよかったら、他を当たってくれよ」


 大歓迎だ。

 心の底からそう思う。


「改名って手もあるわよ」

「なんでオレがそんなくだらないことのために改名しなきゃなんないんだよ。お断りだ」


「つれないわねぇ。つまらないじゃないの」

「つまらなくて結構だよ」


「ちっとも結構じゃないけれど、とりあえず改めて自己紹介をしときましょうか」


 そう言って、美少女が勝手に自己紹介を始める。


 赤眼鏡が姫さんと呼び、悟郎さんが咲さんと呼ぶこの美少女はさきかおる。 

 咲というのは名前じゃなくて苗字だったのだと、初めて知った。

 赤眼鏡――豪と同じく3年A組所属。


 黒縁眼鏡の悟郎さんは、宇野村(うのむら)悟郎。2年D組。

 そうだろうとは思っていたけれど、全員年上だった。


 咲先輩は昨日と同じ席に同じ様に腰かけている。

 違うのは、団子の山がまだ半分くらい残っていることくらいか。


 昨日の団子が何団子だったのかは確認できなかったけれど、今日は三色団子らしい。


「で、今日はなんの用なんだよ?」 

「コホン。今日は、トリプルGの活動内容について説明します。よく聞くように」


 咲先輩がわざとらしい咳を一つして、団子が二つ残っている状態の串をびしっとこちらに向ける。


「遠慮しときマス。概要なら昨日悟郎さんから聞いたから、咲先輩から改めて聞く必要ないし。言っとくけど、オレは、何もするつもりないから。この眼鏡も数珠も、返せるものならとっとと返したいくらいなんだからな。外れないから仕方なく身につけてるけど、それだけだ。今日は赤眼鏡に脅されて仕方なく来ただけだ」


 一応、抵抗を試みる。


「別に脅しちゃいねえって言ってんのに」


 赤眼鏡がにやりと笑う。


「まあ、しょうがないよね」


 悟郎さんが呟く。


「こら。あっさり諦めないで頂戴。駄目よ駄目。そういうわけにはいかないんですからね。あなたたちだって、マコちゃんが手伝ってくれたほうが助かるでしょう」

「マコちゃんて呼ぶなよ」


「だってこっちが悟郎ちゃんなんだもの、君はマコちゃんに決定でしょう」

「ん……? おいちょっと待て。薫が咲先輩で、悟郎が悟郎さんなのに、なんで俺は赤眼鏡なんだよ」


 赤眼鏡が遅れて首をひねる。


「おほほほほ、あんたなんか赤眼鏡で充分って思われてるってことね」

「よほど強烈な印象を与えたんですね、その眼鏡」


「悟郎はいいよな、黒だもんな。目立たねえもんな。くそ、他人事だと思ってよ」

「ほほほ。わたしの場合、この美貌ゆえに眼鏡の印象なんて一瞬で吹き飛んでしまうのよね」


 ほう、とため息を吐きつつ、串に刺さった残りの団子を食べるのは忘れない。

 なんて食欲なんだこの人。


 でもって、オレの抗議はどうなったんだ?


 すっかり話題が逸れている。


 そうか、これがこの人たちの策略なんだな。こうやって咲先輩の勢いにのまれているうちに、とりかえしのつかないことになるんだ。

 そう、まさに昨日と同じパターンじゃないか。長居するのは危険だ。


 オレは近くにあった机を、思い切り叩いた。


 教室内にその音が響き渡り、喧しかった三人の声が止まる。


「兎にも角にも、オレはなにもしないからな。それで困るんだったら、オレからこの眼鏡と数珠を取り外す方法を探してくれよ。それで万事解決だ」


 勢いに呑まれて、言いなりになると思ったら大間違いだ。

 確かに、人の体を乗っ取る果実の存在は怖いと思う。恐ろしいと思う。


 けれど、それを防ぐのは、なにもオレじゃなくたっていいじゃないか。

 悟郎さんのように、やりたい人がやればいい。


 それに。


 昨日、家に帰ってから考えて、気がついたのだ。


 別に、オレが果実に体を乗っ取られたって、誰も困らない。

 むしろ果実が体をほしがっているのなら、こんなオレの体でよければ、くれてやればいい。


 オレ自身より、よほど有効活用してくれるだろう。


 オレには、花守人をやらなければならない理由なんて、なにひとつない。


「あら。マコちゃんはそういう人なのね。危険なことや大変なことは他人任せで、自分はなにもしないくせに、困ったときだけ救いを求めるの?」 


 咲先輩の言葉に、さあっと血の気が引く。


 危険なことは他人任せで、自分はなにもしないくせに――。


 その言葉が、頭の中にがんがんと響きわたる。


「オレ、オレは……」


 そうだ。

 その通りだ。

 オレはなにも変わっていない。


 あの時から、なにひとつ。


 危険なことは他人任せで、自分だけ助かって――。

 こそこそと生き延びて、息をひそめてぐだぐだと生き続けて。


「マコちゃん……?」


 急に黙り込んだオレの変化を不審に思ったのか、咲先輩の訝しそうな声が聞こえた。

 けれどオレは、返事をすることができない。


 そう、オレにはなにもできない。

 オレがなにかをしようとすれば、誰かが不幸な目に合う。

 オレのせいで。


 心臓を締めつけるような息苦しさに耐えながら、声を絞り出す。


「オレには、できない」


 よろりと、ふらつく体をなんとか動かして、教室の外へ向かう。


「須賀くん?」

「ごめん、悟郎さん」


 背後で聞こえた悟郎さんの声に、振り向かないまま謝罪を返す。

 もともと、花守人なんてやるつもりはなかった。


 けれど、悟郎さんには助けてもらった。

 その恩だけは、なんらかの形で返したいと思っていたけれど。


 オレなんかに、なにかができるわけがなかったんだ。

 なにを思いあがっていたんだろう。


 自分の厚顔さが恥ずかしくて、押し寄せる後悔に押しつぶされそうで、オレにはその部屋から逃げ出すことしかできなかった。

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