1 小原さんとプレゼント
「わあ、どうしたの? それ」
その日、登校したオレが机の上に鞄を置くなり、小原さんが声をかけてきた。
小原さんの胸にはピンク色の花が咲いている。
なんて似合うんだ!
オレは衝撃を受けつつも、小原さんの言う「それ」とはもちろんこの黄色い眼鏡のことなんだろうなぁ、と憂鬱な気持ちになる。
「ああ、まあ、成り行きで……」
「恰好いいね! 似合ってるよ」
本当に!?
オレは疑いの気持ちで小原さんを見る。
けれどその純真そうな瞳を見て、ああ、この瞳を疑うなんてできない、と自分を諫める。
小原さんが似合うって言ってくれるんだ。
それだけで充分じゃないか。
「そ、そう? だといいけどさ」
言いながらも、ちらちらと自分に向けられるクラスメイトの視線を感じていた。
ああ、頼むからオレのことなんか放っておいてくれ。
この眼鏡のこともスルーしてくれて一向に構わない。
恐らく、小原さん以外の全員がその眼鏡微妙だ、と感じているに違いない。
昨日、家に帰ってから、自分でも何度も鏡を見て確認したから、似合ってないことは重々承知してる。
――そう、例の美少女たちが、大庭眼鏡集団というネーミングをダサいと認識しているのと同じくらいには。
「似合ってんじゃん」
声をかけられて、肩越しに振り返ると、孝太が立っていた。
それは本気で言ってるわけじゃないよな?
とつっこみたい気持ちを抑える。
「どうも」
オレは適当に受け流した。
「見つけやすくていいし」
続く孝太の言葉に、やっぱり褒めてない、と肩をすくめてから、オレは椅子に腰を下ろした。
「昨日の誕生日パーティーでもらったの?」
興味津々といった風にオレの顔をのぞきこんでくる小原さんの視線に、頼むからそんなにまじまじと見ないでくれ、といたたまれない気持ちになる。
誕生日パーティー……あれがそうだと言えるのか?
美少女が団子をたいらげるのを眺めて、ほしくもないものを強引に押しつけられた、あれが?
これがもらった品という点だけは間違いないけれど。
「うん。まあ……」
「よかったね。あ、そうだ。これ」
小原さんが鞄の中から可愛らしい小袋を取り出した。
袋の口が、かわいい黄色のリボンでしばってある。
「え?」
「お誕生日おめでとう。クッキーなんだけど、よかったら食べてね」
こっ、小原さん!!
オレは座ったばかりなのに思わず立ち上がった。
こんなことしてもらったら、勘違いしてしまいそうだ。
差し出されたその子袋を、そっと受け取る。
本当に、小原さんって優しくていい子なんだよな。
その、なんというかちょっと他の人とズレた感性も小原さんの魅力だと思う。
惚れた欲目? 大いに結構だ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ああ、その笑顔が今日も眩しいです。
そんなことを考えながら、ふとあることに気づいた。
「そういえば、小原さんの誕生日はもう過ぎちゃったの?」
「え? なんで知ってるの?」
「なんでって……」
花が咲いているからだ。
昨日、咲先輩が言っていた。花は十六歳の誕生日に咲くって。
まだ五月だから、このクラスには花の咲いていない蕾の状態の連中が多い。
その中にあって、小原さんの花は綺麗に咲いていた。
「そうなの。あたし、四月三日生まれなんだ。だから入学式の前に十六歳になっちゃったんだよね」
「ええと……あてずっぽうだったんだけど、そうなんだ。おめでとう」
本当のことを言うわけにもいかず、嘘をついているという罪悪感と戦いつつもなんとか誤魔化す。
誕生日を過ぎてだいぶん経ってしまっているけれど、今度クッキーのお礼も兼ねて何かあげようと心に決める。
「うん。ありがとう」
遅れまくったお祝いの言葉だけれど、小原さんは喜んで受け取ってくれた。
予鈴が鳴り響く。
オレは鞄の中身を机の中に放り込んで、代わりにもらったばかりの小袋をそっとしまった。




