14 因縁
「これで僕たちのこと、少しはわかってもらえたかな」
悟郎さんが眼鏡を押し上げながらこちらを見た。
「はあ……」
オレは曖昧にうなずいた。
あの美少女の説明よりはかなりわかりやすかったし、実際にこの目で果実を見ることもできた。
けれど、果実から人間を守るのがオレに課された役割だなんて言われても困る。
オレはそんなの望んじゃいない。ただ静かに目立たず過ごしていたいだけなんだ。
それなのに、なんで……。
どうすれば、赤眼鏡に出会う前までの自分の生活に戻れるのか、まったく見当がつかなかった。
「自分の体を他人に乗っ取られるなんて、そんなことがあっていいわけがない。僕は絶対に許さない」
困惑するオレの横で、悟郎さんが呟く。
「なにか、あったんですか?」
あの白いつば広帽の人と、という言葉は口にしなかったけれど、悟郎さんは察したようで、小さく笑った。
「果実に体を乗っ取られる前、あの人は僕の恋人だったんだ。二つ年上で、名前は綾子。幼なじみでね、僕が高校に入学した直後につきあい始めたんだ。綾子さんが果者になったのは三ヶ月前。志望校に合格して、春から大学に通うのを楽しみにしていたんだけど、ある日突然失踪した」
「失踪……」
「そう。その時の僕は、まだ果実なんて存在を知らなかったからね。わけがわからなくて。事件に巻き込まれたのか、事故にあったのかと、ご家族も必死に探したけれど、結局見つからなかった」
淡々と語る悟郎さんからは、先ほどまでの気迫がすっかり抜け落ちていた。
ただ事実を語る。そこに一切の感情は見えない。
「僕が花守人になったのはそのころだよ。悄然としている僕に、咲さんが声をかけてきたんだ。そして果実のこと、綾子さんが果者になってしまったことを知らされた。僕は綾子さんのためならなんでもするつもりだったから、好都合だった。むしろ自分に綾子さんを取り返す力が与えられたことに感謝したくらいだよ」
「自分で、花守人になることを選んだってことですか?」
「僕の場合はね。桜様が選んだ候補者に、僕が含まれていると咲さんに知らされて、是非にと頼んだんだ」
そういうパターンもあるのか。
他にも候補者がいるのなら、オレは是非にとこの黄色い数珠と眼鏡を譲りたいところだ。
「オレの他にも候補者がいるのなら、その人に代わってもらいたいんだけど。切実に」
オレの言葉を聞いて、悟郎さんが苦笑を浮かべる。
「残念だけど、君の場合は、他に候補者がいなかったんだ。まあ、咲さんがあんな風だから戸惑うことも多いと思うけれど、彼女も悪い人じゃないから」
悪い人かいい人かって以前の問題だと思う。
オレは嘆息した。
「結局、果者ってなんなんですか? さっきのみたいに簡単に還せるのもあれば、綾子さん? あの人みたいに、手こずることもあるってこと?」
「そうだね。果実の種類や能力によっては、状況が違ってくる。体を乗っ取られた状態で長い時間が経過すれば、それだけ果実の影響を受けるしね。果実はいわば異世界の存在だから、この世界の常識が通用しないこともある。あの果者は蘭っていう名前なんだけど、果実の中でも優れた能力をもっているんだ」
「優れた?」
「今現在、強い力を持つ果実が三人いる。その中の一人だよ」
悟郎さんが追い続けても、いまだに還せていない果者。
とっとと目的を終わらせて、お役御免ってわけにもいかないらしい。
オレは途方に暮れて、空を仰いだ。




