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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第1章
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13 人ならざる者による選定と呪い

「果実が人の肉体を手に入れた場合、それを果者(かしゃ)と呼んでいる。果者は……」


 悟郎さんの声が途切れた。

 見ると、悟郎さんの目が何かを追っている。


 視線をたどると、向こうが透けて見える、サッカーボール大の丸いものが路上を転がっていた。

 ついさっき、悟郎さんに打ち抜かれた、例のあれと同じ物だ。


「あっ!」


 オレは思わず声をあげていた。 


「そう。あれが果実だよ。転がる先にいる、女性をよく見ておいて。特に花と頭」

「え?」


 わけがわからないながらも、言われた通りその女性を観察する。

 半透明なボールが、ポンとその女性の手前で跳ねた。


 女性は全く気がついていない。

 その胸には紫色の花が何輪か咲いているのが見える。跳ねたボールが、女性の頭頂部に落ち――。


「あ……」


 果実が消えた。


 頭頂部が薄っすらと橙色の粉を撒いたように染まっている。


 目立つわけではないけれど、うっかり見逃してしまうほど目立たないわけでもない。

 頭頂部の辺りだけで、それ以上は広がらないようだ。

 髪を染めてから時間が経って、根元から地の色がのぞいている状態によく似ている。


「果実は頭頂部から体内に入り込む。薄っすらと髪に残ったあの色は、その際の残滓だよ。あれが果者を見分ける手助けになる」


 悟郎さんの声がすぐそこで聞こえる。

 けれどオレはその女性から目が離せずにいた。あまりにも変化がなさすぎた。


 髪の色が変わっただけだ。

 女性はほんのわずかな間、立ち止まっていたけれど、すぐに歩き始めた。

 ゆっくりと遠ざかってゆく。


 オレたちは足早にそのあとを追う。

 その時、女性の花が紫から橙色にすり替わるのが見えた。


「え?」

「今、果実があの体の意識を眠りに追いやって、自分の意識を表層に出したんだ。ああなってしまうと、あの花は最初から橙色だったように見えるでしょう」


「見える。ていうか、元が紫だったなんてわかんない」

「うん。見分けがつかないんだ。だからこそ、頭頂部の変化が重要になる。眼鏡を外してみて」


 言われるままに眼鏡を上げる。

 その女性の花が見えなくなって、変色したはずの髪もただの黒髪に見える。


「わかった? この眼鏡は花が見えるだけじゃなくて、果実や、果実の残滓も見ることができるんだ。つまり、僕たちは果実や果者を発見するためにこの眼鏡をかけているってわけ」


 オレは再度眼鏡をかけて、うなずく。

 だんだんわかってきた。


「さて、早くあの人の体を乗っ取った果実を果ノ底に還してしまわないと」


 どうやって? と問うために横を向くと、悟郎さんが鈍く黒光りするものを握っていた。


「拳銃!?」


 さっきもだけれど、一体いつの間にそんなものを出し入れしているのか、オレには全くわからない。


「還すのは簡単なんだよ。狙いを定めて、撃つ」


 声に続いて、パン、と乾いた音が聞こえた。

 オレは慌てて視線をさっきの女の人に向ける。


 銃声に驚いたのか、その人は一瞬立ち止まった。

 何かキラキラと輝くものが女の人の周囲に散ったように見えたけれど、すぐに消えてしまう。


 そして女の人は、再び歩き始めた。

 その時には花の色が紫に戻り、頭頂部の橙色も消えている。


「今のは?」


「この数珠が対果実用の道具を呼び出す手助けをしてくれる。呼び出された武器によって傷つけられた果実は、花ノ界に留まる力を失って、果ノ底の引力によって引き戻される。果ノ底には果実を引き付ける力があるから、普通の果実はなかなか果ノ底から離れられないんだよ。引力に逆らうだけの力を持った果実だけがこちらに転がり出てきているんだ」


「全部が全部、こっちに来られるってわけじゃないってことなのか?」


「ああ。でも、最近は果実の数が増えてきていて、少し困っているんだよね。今みたいに、すぐに発見できればいいんだけれど」


 悟郎さんが小さく息を吐く。


 終始、あの女の人は自分の身に何が起こっているのか気づかなかったように見えた。

 自分の体が得体の知れないものに乗っ取られそうになったなんて、夢にも思っていないのだろう。


 そう考えると不思議だったし、恐ろしくもあった。


 そういえば拳銃……。


 見ると、悟郎さんの手にはもう何も握られていなかった。

 ただその手首に黒い数珠がはめられているのが見える。


「これが僕たちに課された役割だよ。この世界が果実に乗っ取られるのを防ぐ。花ノ界を守る存在だから花守人(はなもりびと)と呼ばれているんだ。花守人は大庭高校生の中から選ばれることが多い。それはこの学校が重要な場所に建っていることと、花守人としての能力が使えるようになるのが花の開花と同時――つまり十六歳の誕生日だとうことが関係している。どうして自分が選ばれたのか疑問に思っているかもしれないけれど、花守人を選ぶのは『桜様(さくらさま)』と呼ばれる、人ならざる者なんだ。僕たちにはその決定を覆すことはできない」


 悟郎さんが、きっぱりと告げる。

 人ならざる者。


「それはいったい……」


「何者なのか、という問いには、答えられない。僕たちが知っていることはごくわずかなんだ。ただ、眼鏡と数珠は桜様から花守人に与えられる物で、桜様による(まじな)いがかけられている。さっき仕様といったのは、そういう意味だよ。呪いなんて僕たちにどうこうできる代物じゃないし、その方法もわからない。そういうものだと納得するしかないんだ」


 淡々と説明する悟郎さん。

 オレは、自分の腕にはめられた数珠に目を落とした。


 呪い。


 知ったときには、もう遅い。

 それは、すっかりオレの手首にはまってしまっているのだった。

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