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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第1章
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12 花に彩られた世界の仕組み

「大丈夫だったかい?」


 悟郎さんが、女の消えた空をしばらく見上げたのち、路上にへたりこんでいるオレへと歩み寄り手を差し伸べた。


 その手からは、既に拳銃が消えている。


「あ、ありがとうございます」


 差し伸べられた手をつかむと、悟郎さんがぐいと引っ張り上げて、立たせてくれた。


「いや。事前にもう少し説明できていればよかったんだけれど、なにもわからないままこんな目に合わせて、申し訳なかったね」


 こんな目に合わせて、と悟郎さんは言った。

 つまり、オレがこんな目に合ったのは、やっぱりあの赤眼鏡に出会ってからの一連の出来事に原因があるということだ。

 まあ、そうだろうとは思っていたけれど。


「これのせいですか」


 オレは眼鏡をはずして、悟郎さんにつきつける。


「まあ、大半は。けれど、君が僕たちの仲間になるならないに関係なく、危険は常にそばにある」 


 責任逃れ、というわけではなさそうだ。

 あの三人の中では、この人が一番まともそうだと、オレは思っている。

 話の通じそうなのが、この人しかいない、とも言う。


「説明してください」

「こちらからお願いしたいくらいだよ」


 順を追って説明しよう、と悟郎さんは言った。


「僕たちが生きているこの世界を、僕たちは花ノ(かのかい)と呼んでいる。一方、死後の世界を散花界(さんかかい)という。ここまではいいかい?」

「……はぁ」


 話の出だしが『世界について』だったことにちょっと困惑しながら返事をする。

 この眼鏡とか、さっきの女の説明にたどりつくまでに、どれだけかかるんだ……。


「僕たちは、この花に魂が宿っていると考えている。人の死後、散った花は、散花界の花ノ(かのせん)という泉に舞い落ちる。その泉は散った魂を浄化して種子を成し、それを花ノ界へ送り出す。それが生まれてくる赤ん坊の中に根付くんだ。こうして魂は花ノ界と散花界を廻り続けているんだ」


 輪廻転生。

 そういう話は、耳にしたことがある。


「だから誰しも生まれながらに花を持っている。ただ、普通は見えないから、それを知らずに死んでゆく人がほとんどだけどね」

「だろうなぁ」


 オレは頷きながら、路地裏の先に見える大通りを歩く人々を眺めた。

 普通の人たち。

 けれど眼鏡をかければ、色とりどりの花がまず目に入る。

 その色彩の鮮やかさがどうにも落ち着かない。


「ところが、この循環の輪の中からはみ出るものがあるんだ。それは、花ノ泉の浄化能力をもってしても浄化しきれないもの……。だいたい、生前に大きな罪を犯した者が多いね。それらは、果実となって、泉の底に沈む。果実の沈む場所を、果ノ(かのそこ)という。この果の字には、果実という意味と、果てという意味の両方が含まれているらしいよ。花ノ泉で浄化されなかった魂が最後にたどり着く場所だからね」


 つまり、オレたちが知っているところでいうと、地獄とかそういう感じの場所なんだろう。


「理解できない話ってわけじゃないな。で、その果ノ底に沈んだ果実って、そのあとはどうなるんだ?」


「永遠にそのままの場合もあれば、長い時間をかけることによってゆっくりと浄化されて花ノ泉の水面に浮かび上がる場合もあるらしいね。浮かび上がることができれば、そこからは普通の花と変わらない。また種子として花ノ界に送り出される」


 ただ、と続ける悟郎さんの声が少し低くなった。


「ここからが少し複雑になるんだけど……時々、果の底に沈んだ果実が、こちらの世界に転がり出てくることがあるんだ」


 こちらの世界。

 つまり、オレたちが暮らしているこの場所に、ということだろう。

 一気に身近な話になり、オレは神妙に耳を傾ける。


「花ノ界に転がり出た果実は、人間の肉体を乗っ取ってしまう」


 さっきの女も言っていた。

 体をいただく、体を乗っ取る。


「自身は肉体と呼べるものをもっていないからね。自分の器にちょうどよさそうな人間の肉体を狙い定めて、強引に手に入れてしまう」

「それって……乗っ取られたほうはどうなるんだよ」


 さっき、オレ自身がまさにそんな目に合うところだった。 


「果実によって持ち主の魂は深い眠りに追いやられてしまう。そのまま、肉体が朽ちるまで目覚めないこともある」


 自分の体を乗っ取られ、わけのわからないまま眠り続けて――。

 肉体が朽ちる、つまり死ぬまでそのまま、ってことなのか。


 寿命を全うするとすればあと六十年か、七十年か。

 同級生たちが大人になり、仕事に就き、休日には趣味を堪能し、家庭を持ち、子どもを育て、いずれ孫も生まれて――。


 そういう時を過ごしているあいだ、なにもできず、なにもしらず、ただ眠り続け、そして肉体の死を待つのみ。


 その恐怖に、オレは思わず身震いをした。

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