11 路地裏の戦闘
半透明の球体が、ぽおんとバウンドして、オレの上に落ちてくる――。
と思ったその時、バアン、という銃声のような音が響き、果実が一面に弾け散った。
まるで果汁が飛び散るように、散ったものがオレの上にも降り注ぐ。
けれどそれらからは、物体としての質量も冷たさも感じられなかった。
降り注いだのは、半透明な欠片だった。
散った欠片が、空気に溶け込むように消える。
「あらまあ。お仲間ね」
女がクスクスと笑いながら、ふわりと後ろに飛び退く。
さっきまで女の頭があった場所を、何かが通過した。
それが帽子のつばをかすめたのか、女の帽子が吹き飛ぶ。
顔が露になる。予想外に若い。まだ十代に見える。
ただし化粧をしているのか、唇は真っ赤だった。
そして……帽子がなくなったその頭を見ると、頭頂部だけが薄っすらとレモン色をしている。
「大丈夫かい?」
かけられた声に、オレは驚いて目を見開いた。
「黒メガ……いや、悟郎さん⁉ なんでここに⁉」
「話はあとだ。とりあえず、そこでじっとしているんだ」
鈍く光る拳銃を構えて路地に立っていたのは、悟郎さんだった。
銃口を女に向けている。
一方の女は武器らしきものを持たず、ただ笑い続けている。
「悟郎くん。銃口を下げて、私と一緒に行きましょう」
「断る。僕には一刻も早くおまえを綾子さんの体から追い出すという使命がある」
悟郎さんが躊躇なく銃を撃つ。
いつもの悟郎さんからは想像もできない鋭い声。
そして鬼気迫る表情。その銃口はぶれず、ただ女を狙っている。
避ける女を追うように、次々と銃弾が発射される。
女はそれを笑いながらかわす。
見切っている!? 一体どんな視力と反射神経をしているんだ。
「この子……あなたの怒った顔を見たことがなかったんですって。そんなに大事にしていたの? ごめんなさいね。私が大切な恋人の体を乗っ取っちゃって」
クスクス。クスクス。
笑い声は止まない。
女は笑いながら銃弾をかわし続け、先ほど飛ばされた帽子の場所まで戻るとそれを拾い上げた。
そして、何ごともなかったかのようにそれをかぶる。
「綾子さん……」
悟郎さんが悔しそうに唇を噛み締めている。
悟郎さんが綾子さんと呼んでいるあの女が、以前は彼女が悟郎さんの恋人だった?
でも、体を乗っ取るのか乗っ取らないとか、さっきあの女も言っていたけれど、いったいどういうことなのかわからない。
オレは何もできず、ただ二人の様子を眺めていた。
それにしても女の身体能力は尋常じゃない。
「そろそろお別れの時間ね。悟郎くん、また会いに来るわ。そこの貴方も、気が向いたらその体、貸して頂戴ね。お礼ははずむわよ。それじゃあまたね」
女が軽く地面を蹴った。
たったそれだけに見えた。けれどその女は重力を無視したように高く舞い上がり、薄汚れたビルの上に消える。
「蘭、待てっ!」
悟郎さんの声が、虚しく空に消えた。




