10 路地裏で訪れる諦念
なんだ今の女。
どういうことだ?
狙う? 何を!
通行人が邪魔だった。
かきわけるようにして走る。走って走って、走り続ける。
女の笑い声が聞こえる。
幻聴か? それとも追ってきているのか?
息があがる。運動不足だ。
けれど止まるわけにはいかない。止まってはいけないと、オレの中で警鐘が鳴り響いている。
まるで花畑の中を走っているようだった。
青、赤、桃、黄、橙、紫、白、そして葉の緑。色とりどりの花の中、走り続ける。
女の哄笑がまとわりついて離れない。
逃げることしか考えられなかった。
どれだけ走ったころか、いつの間にか女の笑い声が止んでいることに気がついた。
追ってくる足音もしない。
ようやく撒けたのか、それとも幻聴が止んだのか。
体力の限界が迫っていた。オレは足を止めた。
いつしか人気のない通りに入り込んでしまっていたようだ。
膝に両手をついて息を整えながら、自分の来た道に視線を向け――。
「もうおしまい?」
視界を覆う白い色。クスクスクスという笑い声。
鼻先をかすめる、白い帽子のつば。
「ひっぃぃぃっ!」
オレは驚きのあまり尻餅をつく。
「おっ、おっ、おまえ……」
追ってくる足音はなかった。
そう、ビルに反響していたのは、オレの足音だけだったはずだ。
「ふふふ。あのね、私の友達が体を欲しがっているの。どうせもらうのなら、役に立つ体のほうがいいじゃない?」
女の手がオレの喉をつかみ、そのまま壁に押し付ける。
「っっっ!!」
後頭部を思い切り壁にぶつけた衝撃で、一瞬瞼の裏に火花が散った。
強い力で喉を締め上げられ、声が出ない。
「何も知らない、何もできない。今が絶好の機会なのよ。ふふふ。ふふふふふ」
ぎりぎりと喉を締め上げる手に力がこめられる。
「さあ、いらっしゃい」
女が、オレではないなにかを呼んでいる。
まだ仲間がいるのか――?
霞む目でなんとかその正体を見極めようと視線を彷徨わせる。
と、半透明の球体が路上を転がってくるのがわかった。
いったいなんだ!?
「ふふふ。可愛いこの子のために、あなたのその体、いただくわね。恨むなら、あなたの仲間を恨むことね。きちんとした闘い方も教えてもらえなかったなんて、気の毒だわ。あなたにとってはね。わたしたちにとってはこれ以上ない幸運」
体をもらう!?
冗談じゃない。
具体的にどういうことなのかはわからないけれど、それがやばいことだっていうのはわかる。
わかるけれど、動くことのできないオレには成す術がない。
女の力がかなり強くて、オレが暴れてもびくともしないのだ。
くそっ。
オレを壁に押し付ける女の向こうに、煤けたビルの壁が見えた。
こんなところでオレ、いったいなにやってるんだろうな――。
面倒には巻き込まれないように、静かに生きてきたつもりだったのに。
頭ががんがんと痛み始める。
所詮オレはろくな死に方をしないってことか。
――それなら仕方がない。
自嘲して、オレは観念した。




