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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
第1章
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9 シルクハットとつば広帽

 厄介なことに巻き込まれた。


 ひたすらそういう印象しかない。


 こうなってしまったら、赤眼鏡たちから逃げる必要はない――というか逃げても意味がないわけだし、気分転換に寄り道をして帰るか。


 そんなことを考えて駅前に向かう。


 駅ビルの中のゲームショップやCDショップ、書店を巡るのはいい暇つぶしにもなる。

 そういえば、新しい靴がそろそろ欲しいと思っていたんだった。


 ここ最近、駅前には競うようにして新しいビルが建てられている。

 テナントも増えて、利用客も増えているらしい。


 まあ、オレなんかは決まった店でしか買い物をしないし、ブランドショップなんて縁がないから、ただ人が多くて煩わしいとしか思わないけれど。


 眼鏡をかけていると、あちらこちらに花が咲き誇っているのが見えて、匂いは感じないはずなのに、むせ返りそうになる。


 黒眼鏡の話だと、花には確かに匂いがあるけれど、オレたちにそれを嗅ぐ事はできないらしい。

 それでも、これだけ視覚に訴えられると、幻の香りを嗅いでもおかしくないと思う。


 俺は眉根を寄せながら、高くてキレイなビルの横を通り過ぎ、少し年季の入った中途半端な高さのビルに向かう。


 信号にひっかかってぼーっと待っている間にも、様々な花が目に入る。


 そして気づく。確かに誰もが花を咲かせているけれど、その花の状態には色々あるのだということに。


 沢山の花を見比べるとよくわかる。


 一概には言えないけれど、若い子の花は瑞々しいものが多くて、年配になるとやはりどこか元気がないように見える。


 ふと、黒いものが目に留まった。


 シルクハット?


 横断歩道の反対側。信号待ちをする人の中に、シルクハットをかぶった男の人が立っている。


 背が高い。白いタイをしている。タキシードを着ているみたいだ。

 この街で、そんな服装をしている人を見るのは初めてだった。


 近くでコンサートか何かがあるのかもしれない。


 ――いや、コンサートではシルクハットをかぶって演奏したりしないか。


 役者か何かかな。

 そんなことを考えていると、その人もこちらを見ていることに気づいた。


 目が合う。


 二十代くらいの青年だ。


 笑った? 


 にこりと、口の端を上げたように見えた。


 信号が変わって、周囲の人が歩き始める。

 押されるようにしてオレも横断歩道に踏み込む。

 シルクハットの青年は動かない。その場でじっとしている。


 なんなんだ?


 あと数歩ほどに近づいた時、突然、青年はオレに背を向けて歩き出した。


「え?」


 遠ざかる背中をなんとはなしに見送りながら、首を捻る。

 確かに、オレに対して笑いかけていた。

 知り合いじゃないのは間違いない。


 なんだったんだ――?


「黄菊、綺麗に咲いたわね」


 ふいに耳もとで女の人の声がした。

 驚いて振り返る。


 白いつば広帽子をかぶって、白いワンピースを着た女性が立っていた。

 つばのせいで、顔は見えない。

 胸にはレモン色の花が咲いている。


 聞いたことのない声だった。


 誰だ? 

 なんでオレの花が見える? 

 オレたちの他にも、花の見える奴らがいるのか? 


 つばの下からちらりと見えた赤い口が、にやりと笑う。

 ぞくり、と冷たいものが背中を這い上がってくる。

 オレは数歩あとずさった。


 まずい。


 本能がそれを訴える。

 理由はわからないけれど、こいつはやばい。


「無防備ね。でも、こちらにとっては好都合。ずっと狙っていたのよ」


 クスクスクスと嬉しそうに笑う。


 狙っていた? オレを?


 少なくとも、好意を抱いていたとかつきあいたいとかって意味の『狙う』じゃないことは間違いない。


 オレは、信号が点滅し始めていた横断歩道を走って引き返す。

 人ごみに紛れながら、逃げ切るしかない。


 ぶつかりそうになる通行人をなんとかかわしながら、オレはひたすら走った。

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