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とりぷるじー(GgG)  作者: さく
序章
1/66

 一寸先も見えない。恐怖すら感じさせる、そんな桜吹雪の中だった。

 舞い散る花びらのわずかな隙間に、黒髪がちらりと見える。


「誰……?」


 自分の口から出たその声はひどくかすれていた。

 喉がとても痛くて、大きな声が出せない。


「そこにいるのは、誰……?」


 さっきまですぐ隣を歩いていたはずだった。

 いつの間に離れてしまったのだろう。何故、誰なのか思い出せないのだろう。

 会話だって、したはずなのに。

 問いに答える声はない。

 このままでは見失ってしまう。


 そんな恐怖に襲われて、一歩を踏み出した。

 その瞬間、薄紅色の花吹雪が一変した。

 青い花びら、黄色い花びら、橙に紅に紫、黒……もう、それが花びらなのかどうかもわからない。


 極彩色の欠片が、舞い狂う。

 すぐそこにあった黒髪を完全に隠してしまう。もう、見えない。見つけられない。


「待っ……」


 待って!

 そう言いたいのに、容赦なく襲ってくる無数の色の欠片が口の中に詰まってゆく。

 声が出ない。息もできない。


 助けて。

 助けて……誰か!!


 苦しくて、哀しくて、うずくまる。


 助けて。ごめんなさい。許して。戻ってきて。

 お願い、誰か……。


『命尽きる時、それは花が散る時。散った花は死者の魂、それ故に……』


 薄れゆく意識の中で、誰かの声が甦る。

 あれは誰だったんだろう。

 ぼんやりとそんなことを考えて、そして気づく。


 ああ、そうか。ここに満ちているものは、死者の魂だったのだ。


 死者の魂に埋もれてゆく自分も、きっともう死んでいるのだ。だから助けを求めることに、なんの意味もないのだと。


 なんだ、そうだったのか。


 助かるはずなんかないのに助けを求めるなんて、馬鹿みたいだ。

 可笑しくて笑いたくなった。実際に笑っていたのかもしれない。

 そしてふいに思い出す。


 自分には救いを求める資格なんてなかったのだということを。だから、このまま花に埋もれてしまうのが一番いいんだ。


 これでいい。


 自分に言い聞かせながら目を閉じる。とても静かだった。


 苦しさはいつの間にか消えていた。

 瞼の裏に焼きついた花の色は、いつまでも色あせることがなかった。

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