1.アースラとヴァーニシア
本編の閑話として公開していましたが、独立させる事にしました。
本編以上に進行速度が遅いと思います。
「ふふ、ほんと人っていうのは面白いわね・・・」
全ての世界全ての世界軸を統べる創造神様より地球の管理を仰せつかった私言うなれば管轄神と言うところだろう。
私の名はアースラ。三十一番目の世界軸にて地球の管理を任せられている。
管理と言っても事細かに管理している訳ではない。
そりゃ、最初の頃は気候や大地の変動などにも拘ったりしていたが今はなるようになれって感じでただモニタを見ている事が多い。
すでに次の試験の目標は達成している。
ああ、試験っていうのは創造神様より全管轄神に対して出されている課題の事を言う。
つまり、人類の繁栄だ。
人の基礎を創造神様が生成し、私達管轄神が繁栄させる。
あらゆる世界軸、あらゆる世界(惑星)であらゆる方向性から繁栄をさせていく。
私の管理する地球は、恵まれている方で、太陽があり四季折々がある。
昔の頃は色々実験をした。
隕石を落としたり天変地異を起こしたり、人がある程度栄えた頃は核を落としたり疫病を流行らせたりした。
でも、今は必要がない。
あれらは大局的に大きな変動を来たす事が出来る反面、微調整が出来ない。
微調整に丁度良いのは、戦争でそれ付随するあらゆる行為も含まれている。
戦争で私のする事と言えば、火種を蒔く事と火種を消す事だけ。
「在りもしない核で戦争が起きるのだから・・・」
半世紀前に滅んだ筈のテロ組織アイリス国(IRIS)の残党が核を所持したという情報をアメリカへと流した。
この中に真実は一つもない。
アイリス国というテロ組織の残党は勿論いるだろうが組織としては存在していない。
だから、核を所持したという事実はない。
情報源が見当たらないのは、アイリス教を信奉している国家が秘匿している所為だと勘繰る。
勿論、情報を流したのは私であるから、アメリカが情報源をいくら調べようが分るはずがない。
何故なら私は神だから。
モニタには、以前アイリス国が支配していた国家とアメリカおよび連合軍による戦争の最前線が映っている。
人類を繁栄させるのが私の仕事であるが、別に人類に対して愛着がある訳ではない。
人が簡単に死ぬ所を見て悲壮感を感じるという事はない。
というか、増えすぎた人類をどうやって減らすか悩んでいるくらいで、このまま増えすぎると地球がもたなくなってしまう。
気候に関しては私の力でどうにでも出来るが、動植物の成長やらは劇的に改善をする事が出来ない。
つまり、今の人口だと動植物の繁栄が追いつかず、いずれ世界規模の飢饉が発生する可能性がある。
さて、約百年後の試験目標は「人口10億人以上」で、現在、私の管轄する地球の人口は99億人。
余裕過ぎる。
でも、流石に多すぎる。
このままだと後、半世紀で世界に飢饉が訪れる。
今までエリートとして君臨して来た私の唯一の汚点となり得る。
それだけは何としてでも回避しなければならない。
私の計算によると後、五億人ほど減らせば飢饉を回避出来る筈だ。
現在、前述の戦争以外で私の行っている対策は、一番人口の多い国の飢饉を誘発、宗教派閥による内戦、領有権争いによる戦争などなど。
ざっと、十個ほど行っている。
んで、アイリス教の国とアメリカとの戦争が一番効果が高く毎秒百人前後減っている。
「ふはは、人がゴミの様だっ!」
一度、言ってみたかったのよね。
順調に減っている人類を眺めながら私は手元に置いた煎餅を食べる。
うん、美味しい。
人の作った物にしては上出来だわ。
「・・・相変わらずのサディストね」
「ん?」
突然の乱入者。
「あら、これはこれは落ちこぼれで有名なヴァーニシアさんではないですか」
私の後ろで半目になりながら私を見ている幼馴染にして同僚の管轄神ヴァーニシアがいた。
彼女は三十三番目の地球の管理を任されている。
「微生物の観賞は順調かしら?」
「グスッ・・・」
涙目になったヴァーニシアは、世界軸が違うとはいえ私と同じ地球を任されているにも関わらず全く人類の繁栄に成功していない。
人類の繁栄どころか動物すらおらず、辛うじて植物と微生物がいるくらい。
「で、どんな用?」
ま、聞かなくても分っている事なんだけどね。
「アースラ、お願い!! 私に、力を貸してぇ!!」
堂の入った見事なジャンピング土下座を披露するヴァーニシア。
ちっ、「人に頼みごとをするなら土下座が基本だろう」と言おうとしたのに先手を打たれてしまった。
「どうしよっかなぁ~」
「このままじゃ、私クビになっちゃう」
でしょうね。
地球誕生より約四十六億年、その間にヴァーニシアのした事と言えば微生物の繁栄だけ・・・。
創造神様の試験は、不定期に行われるが合計四回の不合格を貰うと管轄神の職を失ってしまう。
ヴァーニシアはすでに三回の不合格を貰い、百年後の試験も当然不合格で間違いがない。
正直、いくら頑張っても0から10億人にまで人類を繁栄する事はできない。
出来たら奇跡だ。
ま、不可能ではないだろうけど、果たしてヴァーニシアに可能なのか。
「で、私にどうして欲しいの?」
「人を少しでも良いの。 私に頂戴?」
土下座の状態で上目遣いでお願いをしてくる。
くぅ、落ち着け私。 頭に足を乗せたい気持ちを抑えるんだ。
何とか落ち着いた私は考える。
不可能ではないという理由、それは他の神から人を譲り受ける事だ。
ズルだけど創造神様は禁止していないし、数名程度なら他の管轄神と偶に取引をしている。
原理はよく分らないが、人が他の世界軸に渡る際に神でさえチートじゃね? と思える力が付与(自動)される。
それを利用して人口の調整をする訳だ。
ま、いわゆる神の秘密兵器である。
とはいえ、私は人を譲る方で譲られる方ではない。
人が減らさないといけないぐらいだし・・・。
それでもタダで譲るのは癪だし、ヴァーニシアから得られるものなんてこれっぽっちもない。
「取り合えず、私の椅子になりなさい」
「は、はい。 どうぞ、お座り下さい」
私は椅子に座り、彼女との取引をどういう風に執り行うのかを唯一私にはない二つの巨大な果実を弄りながら考える。
「ちぃ、忌々しい」
「ご、ごめんなさい」
多くの人を減らせるチャンスではあるが、ヴァーニシアが喜ぶから嫌だなぁ。
私がそこそこ楽しくないとダメだ。
何かないか・・・と、辺りを見回した際に一つのモニタに目が行く。
そのモニタには、人類が作り出したゲームと呼ばれる画面が映っている。
これが中々面白く、管理する片手間で私も遊んでいる。
あ、これは創造神様には内緒ね。
人類が作り出した幾多のゲームの中で唯一のVRMMORPG「Evolution Online」。
閃いたっ。 やはり、私は天才だ。
癪ではあるがヴァーニシアの要求に答えつつ私も楽しめる事を思いついてしまった。
それは、「Evolution Online」内に存在する人の情報をヴァーニシアに提供する事だ。
それにプラスして人の成分表と「Evolution Online」のあらゆるデータ(ただし、地球人の人格を含まない)を付随させる。
人の成分表だけでは十億人分のデータを用意しているだけで百年が過ぎてしまうだろう。
また、「Evolution Online」のデータだけでは人を作る事が出来ない。
それならば、ハード(成分表)とソフト(E/O)を提供してやれば良い。
実際の製品(人)でない所がミソである。
これによりヴァーニシアは、人を作り出す切欠を得る事で目的を達成し、私は「アースラから取引で人を得た」と信じきったヴァーニシアをニヤニヤしながら眺める事が出来る。
ぶっちゃけ、今更、人の成分表なんてヴァーニシアにしか価値はない。
「Evolution Online」だって、人が勝手に作ったもので私は何もしていない。
ほら、私は何も損をしていない。
実は私から何も渡していないという事実を知らず喜ぶヴァーニシアがさぞかし愉快であろう。
想像するだけ楽しみになってきた。
「ねぇ。 何を見ているの?」
「ヴァーニシア、あんたに十億人あげるわ」
「ええ!? ほんとに、ほんとに良いの?」
「ええ」
ヴァーニシアにあげるのは次のもの。
一つ、人の成分表(魂魄とか神達が扱う成分)
一つ、Evolution Online内に存在する十億人分の情報(ただし、内一億人だけ地球人のプレイヤー)
一つ、Evolution Onlineの人以外のあらゆるデータ(ただし、すでに存在する地形以外)
一つ、人類創造の手順を記したメモ(上記三つだけでは不安なので)
この四つで人と人が生活していく上で必要な物が揃うはず。
ただし、ここで一つだけ足りない物があり、それはプレイヤー達の本来の人格だ。
実際の人を渡す訳ではないので、それだけは欠けてしまう。
まぁ、私がここまでしてあげたのだから、後はヴァーニシアに頑張って貰うしかない。
彼女のする事は、取引後プレイヤー達の人格付けだ。
ノンプレイヤーは、「Evolution Online」の開発者達とAIが人格付けを終わらせているが、プレイヤー達に関しては真っ白だ。
本来「Evolution Online」に必要のない部分だから・・・。
さらにタイミングが悪い事に「Evolution Online」のシステムの一つ”世代交代”が行われた直後というのが状況を悪化させている。
ヴァーニシアは、過去を推察して歴代キャラの傾向を予測し、新たに一億人分のプレイヤー達の人生を創造しなければならない。
「あんたなら出来るわ」
「え? 何が??」
落ちこぼれ過ぎて腐り落ちても神は神。
人の生成はヴァーニシアが努力すれば良いし、無機物は神の力で簡単に作り出せる。
ヴァーニシアの世界・・・ヴァーニスへと転移したとしてもすぐには無理だろう。
十年は人の人格付けの作業となる。
ああ、そうだ。 地球のサブカルチャー情報も渡してあげよう。
このサディスト・アースラで有名な私がヴァーニシアの為にこんな大判振る舞いは珍しい。
とはいえ、人の取引よりは全然マシだ。
あれは、取引の際、その人がいたという痕跡を消さないといけないし、稀に返したいと言ってくる神もいる。
帰って来たら帰って来たでその人は存在したという事実を周りの人に認識しなおさなければならない。
まぁ、つまり色々面倒なのだ。
それに比べてヴァーニシアにしてやる事なんてたかが知れている。
「お?」
なんか「Evolution Online」で面白い事が起きている。
E/O内に存在する四神の一柱ヴィーナスが暴走している様だ。
仮想世界に人を閉じ込める訳か・・・、面白い。
この行く先が気になるわね。
彼らが転移したら痕跡を消して続きを見ましょう。
「ヴァーニシア、あんた一応彼らの力を借りるんだから挨拶して来なさいよ」
「え、出来るの?」
「はい、マイク」
「あ、わわ」
マイクがヴァーニシアの手の中で跳ねる。
どんだけ焦ってんのよ。
「こ、心の準備が・・・」
「はい、時間切れ~」
私は介入のスイッチを押しヴァーニシアの声を「Evolution Online」へ届ける。
一応、念の為ヴィーナスには気付かれない様にしよう。
どうせ、ヴィーナスの暴走はそのままにさせる訳だし・・・。
「あ、あ~。 ただいま、マイクのテスト中、テス、テス。 こんなものかな・・・。 え~と、Evolution Onlineをプレイ中の皆様、私の名前は・・・・・・」
◆◆◆
「あ~、面白かった」
ヴァーニシア、うまくやりなさいよ。
あんたが次不合格になった面白おかしく慌てふためく姿を見れなくなるから退屈になるじゃない。
それはそれとして・・・、デスゲームか・・・面白くなってきたわね。