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女神キャンペーン〜異世界への招待〜  作者: 燁。
第1章 異世界への招待
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第2話





気づくと俺は何やら周りが真っ白な空間にいた。体が浮いている。不思議な感覚だ。初めて体験するぽわぽわとした浮遊感は。



そして目の前には、母さん(・・・)




…………………母さん?え、待って。





「何故?」


「ようこそ!えっと、うんと、真っ白な世界へ!」


「いや、名前の適当さね。」


「名前はまだない!」





どこぞの小説の名言かよ。両手を広げて笑いかけてくる彼女にどう突っ込めばいいのやらと呆れてしまう。



しかし、今の短い会話でも分かったことが幾つかある。



まず、見た目はまさしく俺の母親その人であるが、話し方や漂う雰囲気はまるで別人。中身は母さんではない。



そしてその中の者がおそらく自分とそう歳の変わらない身体の構造であること。特に声はまだあどけなさも残されている少し高めのそれであった。





「あんたは誰だ?」


「やだ汐音、お母さんを忘れ『母さんじゃないことは分かってる』…つれないなぁ、もう。」





何急に母さんの声色真似してんだよ、ちょっと似てて焦ったわ。てかつれないって、健太かよ。あいつと同じ反応かよ。



頬を膨らませて"私怒ってるんだからね"のいかにもアピールしている誰か(・・)をじっと見つめる。





「そんなに見つめられると照れるじゃない。」


「なら早く教えてくれよ。ここはどこで、あんたは誰だ?」


「私の名前はナリーシャ。存在の説明は、そうね…"世界を創造する者"とでも言っておこうかしら。」





急に声のトーンが変わる。初めの幼さの残った声でも、母さんを彷彿させる声でもなく、総てをその目で見てきたような迫力のある声。さすがは、





「女神、か…」


「簡単に言うとそんな感じね。形という概念がないから、その者の大切な存在の姿を借りるのよ。」





思わず言葉を漏らす俺に女神…ナリーシャは微笑んで肯定した。言われてみれば、神という存在に形があっても俄かに信じがたい。それで俺の場合は、母さんというわけだ。



だが、それよりもだ。何故俺はこんな場所で、こんな危なそうな女神の目の前にいるんだ。ここはどこだ!俺は汐音だ!





「危なそうで悪かったわね!荒れまくってるあなたよりマシよ。」






ふん、と不機嫌そうに鼻を鳴らしてそう突っ込んできた。どうやら心の声が聞こえてしまったらしい。さすがは女神である。



とにかく、心が読めたのなら早く質問に答えてほしい。俺はそんなに大人じゃないんだ。本気で暴れるぞ、そろそろ。



そんな俺の想いを知ってか知らずか、ナリーシャはため息をひとつ零し、しかし申し訳なさそうに答えてくれた。




「あなたはバスケットの試合で大怪我をしました。今は意識不明の重体で病室にいます。」


「…そうか。確かになんとなく覚えてる。うん、それで?」





曖昧な記憶の断片にコート横に並べられたパイプ椅子に自ら突っ込んでいくのを見つけた。そしてそれが大怪我の原因なのだろう。



実感が湧かないからだろうか。思ったよりも冷静な声を出している自分に少し驚く。しかし続きを促す俺に彼女はますます眉を下げ、ゆっくりと言葉を紡いだ。




「それで……申し訳ないの一言では表せないのだけど、あなたがこんなことになったのはおそらくこちら(・・・)の責任なのよ。世界の辻褄を合わせるシステムが誤作動を起こして、寿命のまだ尽きていないあなたが…。」





そう言い淀んだ彼女に、ああ、と状況を理解する。そういえばいつもはあんな球、あそこまで追いかけはしなかった。あのとき試合は確かに負けていたが、まだ2クォーター目、しかも追いつけない点差でもなかったのだ。



きっとそこにシステムとやらが誤作動を起こして俺の感情や思考が無理やり捻じ曲げられたのだろう。





「勢いよくベンチに突っ込んでいったせいで、脊髄に損傷を起こしているの。だから……。」


「いい。分かった、言いたいことは。」





もう聞きたくなかった。聞かなくてもその言葉の先は簡単に予想できるのだから。脊椎は中枢神経、一度損傷してしまえば修復できないもの。



本気で申し訳ないと言外に訴えかけるナリーシャの表情が残酷にもそれが真実であることを語り、俺は絶望に包まれた。



俺の乾いた笑い声だけが響く。





「つまり、俺はもう二度とバスケができないんだろ?それどころか……歩けもしないか?」





ナリーシャは答えない。俺はそれを肯定と受け取った。大方下部胸椎やら腰椎やらに損傷を受けたのだろう。パイプ椅子に突っ込めばその辺りが1番受けそうだし、その結果下肢が不自由ってところか。



別に彼女のせいじゃない。いや、広く見れば彼女のせいでもあるのだが、直接的な要因はそのシステムと、それに指定されてしまった俺の不運だ。



馬鹿だよなぁ、俺。





「……それで?女神さん、あんたはそれを伝えるために出てきたのか?」


「それもあるけど、1つ、提案があるのよ。」


「提案…?」




俺の問いに、ナリーシャはコホン、とわざとらしく咳払いをした。次は何を言われるのかと身構えていると────。







「只今期間限定異世界キャンペーン実施中です!」






……………は?



イセカイ??つまり、異世界……地球とは違う世界。



おそらく俺は相当間抜けな顔をしていたことだろう。しかしそれは許してほしい。だって仕方ないだろ、唐突すぎる、話が。



目の前で先ほどとは打って変わり表情を作り変え、微笑んでいる彼女を見やる。



嘘を言っている様子……ではないか。





「……く、詳しく。」


「心を折らずに聞いてほしいのだけど、さっきも言った通り、あなたはもう自由な生活は送れない。スポーツどころか、歩くことも。ましてや学校に行こうったって、介護人や車椅子が必要になるわ。いくら誤作動だったとしても、私達が所謂神という存在だとしても、起こってしまった事象を変えることはできないの。」


「……分かってたことだけどはっきり言われると辛いな。」


「そこでよ!あなたには選択肢を贈ります。現実を受け入れて、今の世界で生活するも良し。今の記憶を保ったまま、怪我や後遺症もない状態で異世界、アノルーダで新たな生活を送るも良し。選ぶのはあなた次第よ。」





あなた次第って言われても…。そんなすぐに決めれることなんだろうか。確かに不自由な生活なんて嫌だし、異世界っていう存在も気にはなる。だがそうなると、もう二度と今の仲間とは会えないというわけだ。





「出来ることなら怪我をなかったことにしてあげたいんだけどね…。そうすると世界に歪み(・・)が起こってしまうから。」


「いや、いいんだ。気持ちだけで嬉しいよ。」





一人間である俺のためにここまで本気で謝罪してあれこれ考えてくれたことに感謝し、精一杯の笑顔を彼女に送る。



すると何故か頬をうっすら赤く染めて目を逸らされてしまった。今の行為の何が問題なんだ?そんなに俺の笑顔って見てられないか?




……まあ、いい。とにかく早く決めなければ。いくつか質問を考えよう。



まずこれって異世界を選んだら転生って形になるのか?正直この精神で赤ん坊からやり直すのはきついぞ。色んな意味で。



それに、俺が異世界に行くとこっちの世界での俺との思い出はなかったことになるのだろうか。それはそれで寂しい気もする。



そして、そのアノルーダというのはどんな世界なのか。これが1番重要な気がする。一歩外に出たら死んでしまうような世界では、わざわざここを捨ててまで行く甲斐がない。





「……いくつか質問してもいいか?」


「ええ、私が答えられるようなことなら何でも聞いて。」





俺はナリーシャに思いつく限りのことを聞いて行った。転生のこと、記憶のこと、アノルーダのこと。



一通り聞き終えた俺は静かに彼女の次の言葉を待つ。






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