友達の詩
同性愛をテーマとしていますがBL作品ではありません。この作品で何かを感じてくだされば幸いです。
中三の冬、俺が好きになったのは同じ性別の親友だった。
「俺、翔のことが好きなんだ」
自分の気持ちを言おうか随分悩んだ。
今の『親友』という位置づけが自分なりに気に入っていたからだ。
別に意識しなくても翔の隣にいれたし、ずっと見ていても冗談で済んで、帰り道にふざけて手を繋ぐこともできた。
でも言おうと思ったのは、気に入っていたはずの位置に辛さを感じたからだった。
「好きだ」と言ったら「俺もだよ」と冗談で返してくれて、軽い会話なのにその日はバカみたいにテンションが高くなる。
翔が誰かを好きになったら一番に報告してきてくれて一緒に悩んで、でも心の中ではその相手と上手くいかないことを願う。
それがだんだんと辛くなってきたから。
だから言った。
翔が好きだと言った。
帰り道の途中、誰もいないことを確認して告白した。
「俺、翔のことが好きなんだ」
「え・・・」
いつもの冗談ではないことを察したのか翔は黙ってしまった。
そして、
「そんなの、変だよ」
一言残して走って行ってしまった。
それから卒業までの三ヶ月、翔とは微妙な関係が続いた。
二人だけで話すことはほとんど無くなったし、翔と遊ぶときは必ず他の誰かが一緒だった。
偶然登校中に会っても、気まずそうにお互い黙っていた。
俺は後悔していた。
もし、『好き』にならなかったら、『好き』だと言ってなかったら、俺らはずっと二人でいられた。
気まずさなんか感じずに「おはよう」と言えた。
二人で出掛けて買い物だってできた。
今更後悔しても遅いけど、俺は自分を責めることしかできなかった。
そして俺らは卒業し、お互い別々の高校に進学した。
何年後かにもう一度、こんなこともあったなと笑えるようになった頃、もしもう一度会えたら、また仲良くしてください。『親友』と呼んでください。
そんなことを思い、俺は校門を後にした。
十年後、俺は大学のときに知り合った彼女と結婚することになった。
俺は結婚式に翔を呼ぶことにした。
翔のことは中学を卒業してから、街中で見かけることはあっても直接かかわる事はなかったし、ただ噂で大学には行かずに就職したと聞いただけだった。
それでも呼ぼうと思ったのは、やっぱり翔は中三の俺にとって大切な存在だったことには変わりないから。
今でも翔のことが好きってことはもうないし、翔はどう思っているか分からないけど、俺の中ではいつまでも親友だった。
招待状を送ったからといって来てくれるとは限らない、でもきっと来てくれると信じて俺は当日を迎えた。
「新郎新婦入場」
アナウンスが流れ、扉が開いた。
拍手に迎えられ、俺はゆっくりと歩き出した。
真っ先に確認するのは翔の座るはずの席。
そこに翔は・・・
「いた・・・」
そこには翔がいた。
こっちを笑顔で見てくれていた。
みんなと一緒に拍手をしてくれていた。
泣きそうになるのを堪えて俺は歩いた。
指輪の交換、ケーキ入刀、花嫁からの父親への手紙、結婚式は順調に進んだ。
そして、友人達による祝辞の時間になった。
前に出てきたのは中学時代につるんでいたメンバーと、翔だった。
会場が暗くなり、スクリーンが現れる。
「俺たちは、新郎の中学のときからの友達です。祝辞って言っても大したこと言えないから、こんなものを作ってきました」
懐かしい中学の校歌のピアノ演奏が流れ、スクリーンが明るくなっていく。
映し出されたのは、写真だった。
体育祭、文化祭、何枚もの写真が流れる。
一年、二年、三年、学年が上がっていく。
写されるどの写真も俺の側には翔がいた。
いつも翔が隣で笑っていた。
確かに俺らは親友だった。
場面が卒業式になり、写真から翔の姿がなくなると胸が締め付けられる感じがした。
最後にスクリーンに映った卒業式の最後に撮ったクラス写真は、俺と翔の間に距離があった。
ピアノの演奏が止み、会場が明るくなるとスクリーンの前にマイクを持った翔が立った。
これで終わりだと思っていた俺は、翔が出てきたことに驚いた。
翔は俺の目を見て口を開いた。
「結婚おめでとう。お前は俺の親友だ。幸せになれよ」
その瞬間、俺の目から涙が溢れてきた。
告白して拒絶されたときも泣かなかったのに、なぜか涙が止まらなかった。
マイクを司会者に渡し、拍手に見送られながら自分の席に戻る翔の背中に向かって、「ありがとう、ありがとう」と何度も言いながら泣いた。
翔も泣いているようだった。
本当に最高の結婚式だった。
俺は気付いた。
手を繋ぐぐらいでも良い。
それがダメなら隣にいるだけでも良い。
それすら無理なら、『親友』で良い。
やっぱり翔との位置づけは、『親友』くらいが丁度良い。
END
読んでいただきありがとうございました。