第2話《検証》
道中やることもない俺は、契約モンスターたちの状態を確認することにした。
このどことも知れない森で目覚めてから、ログアウトボタンの消失やら何やらこれまでの仕様とは違う想定外の事態が起きている。
下手をすると、魔物達の仕様も多少なりとも変わっているかもしれない。それに気付かないまま戦闘に挑んで、致命的なミスなんか引き起こしたら目も当てられない。
こういう細かい検証を重ねることが、最弱クラスの魔物使いで生き残る秘訣なのですよ。
まずは《魔物契約》スキル……は、モンスターが周囲に居ないから今は検証できないとして、よし。《魔物鑑定》から使ってみるか。ヤツを再び頭の上から下ろして――『ウム? ナンダ、ゴ主人?』――鑑定する。
「《魔物鑑定》」
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【お化け帽子】LV.29
HP:800
MP:2100
一般特技:《マナバレット》
固有特技:《危機察知》
説明:ダンジョンで亡くなった魔術師の怨念が遺品の帽子に取り憑き、ダンジョンの魔力を受けてモンスター化したもの。思考能力を僅かに維持しており、生前に習得した簡単な魔法を使える。
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『……ゴ主人、ナニガシタインダ?』
「ああ、悪い。ちょっと鑑定させて貰ってたんだ。もう終わったから戻すな」
どうやら《魔物鑑定》は問題なく使えるようだ。確認が終わったため、お化け帽子を頭の上に戻してやる。
「次は、そうだな。お化け帽子、そこの木に向かって《マナバレット》」
お化け帽子は俺が指差した先にある一本の広葉樹に狙いを定めると、技名をコールする。
『《マナバレット》』
魔力で出来た5つの弾丸がお化け帽子の周囲に展開されると、射出にコンマ数秒の時間差を付け、大木へと放つ。
時間差を付けて放たれた魔力の弾丸は全て幹の同じ箇所へ命中し、4発目で大木を貫き、その先にある木々にまでダメージを与える。
「《一般特技》は問題ないみたいだな。次は《固有特技》だけど――《危機察知》はお化け帽子だけじゃ実験出来ないか」
《危機察知》はその名の通り、自分に対する攻撃を事前に察知するスキル。攻撃してくる相手がいないと、効果の実証ができない。
「別のヤツも呼び出すか。《アイテムボックス》」
俺は新たに魔物を呼び出すため、プレイヤーならば誰もが使えるアイテムボックスをコールする。
魔物使いが使役する魔物は、待機状態になると自動で縮小&アイテム化される。そのため魔物使いは、待機状態の魔物は基本的にアイテムボックスへと収納している。
この仕様にも実は、魔物使いが不遇職たる所以があるのだが……それは今は置いておく。
アイテム欄に目的のブツを見付けた俺は、手動選択で呼び出す。
「《ハンドマイム》、行動化!」
アイテム欄から一対の白手袋が具現化し、俺の周りをクルクルと飛び回る。
その呼び出しモーションが終わると、白手袋は俺に向かって「やあ」と挨拶するように手を上げた。
この白手袋が俺の使役する魔物の一体、《ハンドマイム》である。
本来はもう二周りほど大きいのだが、俺がとある工夫で大きさを抑えてあるので、待機時の縮小&アイテム化と同じ大きさのままだ。
「早速だけど、ちょっとお化け帽子を攻撃してくれるか?」
ハンドマイムは握り拳から親指を突き出した、グーのポーズ。了承したってことだろう。 準備運動なのか、パキパキと指を鳴らすような仕草をするハンドマイムに、俺は攻撃を指示する。
「ハンドマイム、お化け帽子に接近して《魔爆掌》!」
ハンドマイムは急速で接近。掌から魔力爆発を起こして近接攻撃する、ハンドマイムの一般特技《魔爆掌》がフェイントを入れて放たれる。
『ゴ主人――右ダ!』
「ッ!」
俺はお化け帽子の忠告に従い、ハンドマイムの攻撃を見ることなく左へ大きく跳ぶ。その一瞬後、さっきまで俺の頭があった地点で魔爆掌が炸裂。間一髪、俺はダメージを免れたが、ハンドマイムは爆発の余波で後方へ吹っ飛んで行った。
『肝ガ冷エタゾ』
「すまんすまん。俺も今になって、わざわざ攻撃力の高い《魔爆掌》使わんでも良かったよなと思ってる。まあ、お疲れさんだったな、お化け帽子。あとハンドマイムもな」
危うく死にかけたお化け帽子と、遠くまで吹き飛ばされて戻って来たハンドマイムに労いの言葉をかける。
《同時操作》は今のお化け帽子とハンドマイムの模擬戦で問題なく使用できることはわかった。
これで取り敢えず、システムに登録された魔物使いスキルはこれまで通り使えることが確認できたことになる。
「そうだな。せっかく《ハンドマイム》を呼び出したことだし、システム外スキルも確認して――」
その時だった。俺の耳が、甲高い、鉄と鉄を打ち合わせる音を拾う。
「これは……」
『剣撃ノ音ダナ』
「だな」
これで人と邂逅できる。プレイヤーだったなら、今のログアウトできない状況も打破できるかもしれない。
「よし、行くぞ。お化け帽子、ハンドマイム!」
『了解ダ』
俺は剣撃の音が聞こえた方向へと即座に駆け出した。