殿下と私ー過去編ー(1)
ある夜、懐かしい夢を見た。実際にあったことだ。
シアン殿下と私が出会った日のこと。シアン殿下は十歳、私は十三歳だったな。
「こちらが、新しく殿下付きの女官となります、ニナ・コルビッツです」
女官長の紹介に、殿下はちらりと視線をこちらに投げただけだった。
「ニナと申します。精一杯お仕えいたします。どうぞよろしくお願いします」
私は初めて会う王族に緊張でガチガチになりながら、習ったばかりの正式な礼をとった。
私の挨拶にも殿下はそっぽを向いている。
なにかお気に障ったのだろうか。私は一人あわあわしていた。
女官長も何か思うところがおありだったのだろう、私の身の上を語り出された。
「ニナはまだ十三歳ですが、お父上のコルビッツ前男爵が亡くなられたので、縁あって王宮にあがることになりました。」
その言葉に初めて殿下がしっかりと私を見た。
綺麗な綺麗な緑がかった青い目。以前、流行り絵で見た王妃様に似た優しそうな面立ちの男の子だった。
金色の髪が、陽の光に透けてきらきらしてる。
私が殿下を見つめすぎたせいか。殿下もじっくりと私を眺めている。
あんまりジロジロ見られるので、どうしていいかわからなくなる。
私はそんなじっくり見るほど目立った容姿はしていない。
はっ、もしかしてメイド服の着方が間違ってるとか!?
「あ、あの・・・」
勇気を出して声をかけてみる。
「ニナが王宮に来るって、家はどうなったの?」
殿下から思わぬ質問が飛んできた。
私は女官長を一度みると、頷かれたので直接返答することにした。
「家は父の弟である叔父が継ぎました」
「コルビッツ男爵はニナを追い出したの?」
その言葉にぎょっとする。
「いえ、決してそんなわけでは!ただ私は既に母もありませんので、働きにでようかなと。すると叔父がせっかく働くのなら、最高の場所をと縁を頼って王宮を紹介してくれたんです」
殿下はふうんと、あまり興味なさそうに返した。
実際本当の話だ。叔父家族は悪い人たちではなく、ただ貧乏ぎりぎりの生活だった。
男爵位が手に入っても、元々コルビッツ男爵家は使用人もおけないような経済状態だったので、あまり変わらなかったようだ。
そこに転がり込んだ身よりのない私。お荷物だったのは子供心にわかった。
その状態を見かねて私は自分から奉公の件を言い出したのだ。
「さて、殿下はもうすぐお勉強の時間ですね。ニナ、さっそくですが殿下と先生にお茶をお出しして」
女官長に命じられ、私は一礼し殿下の部屋をさがった。
これが殿下との最初の出会い。