さよなら、殿下(2)
その後、話し合った中で判明したのだが、ベアトリーチェ様はなんと陛下の妹君、つまりシアン殿下の叔母にあたる身だったのだ。
なんでも悪趣味なことに、王家の閨房の教師は王の近しい身内の女性がつとめる慣わしだそうで、シアン殿下の場合はベアトリーチェ様に白羽の矢がたったとのこと。
ベアトリーチェ様は既に隣国の武功で名を馳せる将軍の元へ嫁がれていて、年に何度かこちらにもどられるぐらい。そして、この国ではご自身でストランデル伯爵位をお持ちとのことだが、領地運営は雇い人に任せきりらしい。
今いるお屋敷は、年に数日しか使われないという、陛下から賜った王都滞在用の屋敷なのだという。
陛下は昔から年の離れた妹君を溺愛されていて、ベアトリーチェ様曰く、陛下にお願いして叶わなかった願いはないのだという。
「ですから、ニナ様の件もきっと大丈夫ですわ!陛下は悪いようになさりませんもの」
陛下への信頼が眩しいほどである。
まぁそこまで、請け負ってくれるなら大丈夫かな?少なくとも私を連れだしたことで、ベアトリーチェ様にお咎めがいくことはなさそうなのは、一安心である。
陛下のシスコンに感謝感謝だ。
「で、私考えたのですけど、もしニナ様さえよろしければ私と一緒にトリドにまいりません?」
トリドというのは、ベアトリーチェ様の嫁ぎ先の国である。
今私たちは、お気に入りの庭で豪奢なカップ片手にティータイム中だ。
少し前の生活では、ありえなかった優雅さにいまいち、馴染めない。
本当はキリキリ働いてるほうが性に合ってるのだ。これでも父さまが生きてたら男爵令嬢だったんだけど、どっちにしても貧乏男爵家だったから、あんまりかわらなかったかな。
ちなみに、三つの時に母さまが亡くなった後、九つの時に父さまが亡くなって、男爵家は父さまの弟が継がれた。
この国では女性に継承権はないのだ。
ベアトリーチェ様のストランデル伯爵位は、めったにないことだが、一代限りの伯爵位ということになる。どうやら、隣国との関係を強固にした功績に対して付与されたそうだけど、どうにもこじつけっぽい。
なんだかどうにかベアトリーチェ様と故国の関係を維持してたい、って思惑がすけてるような・・・。
「トリドもとても良いところですのよ!気候も穏やかですし・・・。もしこちらに未練がないようでしたら、ね?新天地でいかがかしら?」
未練。その言葉に色々考えさせられてしまう。
二親はもうないし、兄弟姉妹もいない。叔父家族とは奉公に出されてから疎遠だし、友人や仲間と思ってた人たちも今回の件でもうどうでもよくなってしまった。
未練と聞いて殿下の顔が浮かんだが、頭を一振り、追い出す。
妃になる覚悟もなく、自分から逃げ出したのだ。未練も何もあるまい。
新天地。それもいいかもしれない。どうせこの国でやってくかぎり、どこからか殿下とのことはばれてしまうだろう。色々やりづらそうだ。
いっそベアトリーチェ様についていったほうが、すっきりして良さそうな気がする。
「そ れもいい気がします」
私の返事にベアトリーチェ様は嬉しそうに頷いた。