妃、無理です!(1)
「あ、あの!ベアトリーチェ様?お待ちください!」
「はい?」
私の突然の大声にも動じず、ベアトリーチェ様は首を傾げ私の言葉の続きを待っている。
「あの、あの、お妃教育というのは」
「ええ。やはり一国の妃、ご正妃であれ、ご側妃であれ、ある程度以上の礼儀、教養は必要でしょう?殿下はニナ様がお恥ずかしい思いをされないようにと」
「あの、そうじゃなくて!私、お妃になんてなりません!無理です!」
切々と語ろうとしたベアトリーチェ様を遮り、私は悲鳴のように言い切った。
部屋に痛いほどの沈黙が満ちる。
ここれ以上あいたら落ちてくるんじゃないかと言うほど、ベアトリーチェ様の目が見開かれている。
「・・・自信がないのは、不安なのはわかります。でも殿下を愛しておいでなら」
「いや、もう、ちょっとそこからしてちがうんですってば!」
説得にかかってきたベアトリーチェ様を再び遮る。
私は丁寧な口調をかなぐりすて、頭と手を左右に振り全身で否定した。
「殿下が私にこだわったのは、たぶん、特定の女性を作るのが面倒だったからです。私なら周りの方も納得しないから、逃げ道にしただけかと。私たちの間に恋愛関係はございません!」
はっきり言い切ると、ベアトリーチェ様の目はさらに大きくなった。
「まぁ・・・まぁ、なんてこと・・・。私、お二人が忍ぶ仲なのかと。お二人の為にと思って周りを説得して・・・では、なぜ夜伽の命を受け入れられたのです?」
「ご命令だったからです。特に義理立てする相手もおりませんし。お断りして、万が一、一族に罰があってもまずいし・・・」
説明するほどにベアトリーチェ様は真っ青になっていく。
腰かけてもらっててよかった。立ってたら倒れてたかも。
「では、ニナ様にシアン殿下へのお気持ちはないと」
「はぁ、まぁ、おちいさい頃からお仕えしていますから、もちろん主としてはお慕いしていますが・・・」
本当はこんなことになる前は、最近の殿下にちょっとときめいてたことは言わないでおこう、ややこしくなりそうだから。
ベアトリーチェ様はついに顔を覆ってしまわれた。
長い沈黙の後、消沈した様子のベアトリーチェ様は言葉を絞り出すように話し出した。




