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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第2章
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伝えたい想い

「シアン様」

 目を伏せたくなるけど、ぐっとこらえてその青い瞳をますぐに見る。

「あの、今更なんですが受け取っていただきたいものがあって・・・」

 私はそう切り出すと、そっと掌で包んでいた白い花を差し出した。

「どうか、お許しいただけるなら、私からの気持ちも受け取っていただきたいのです」

 シアン様は答えの代わりか、白い花ごと私の手をそっと包みこむ。

 たしか、宝樹の花を贈って、二人の手を合わせて、生涯伴にあることを誓い合うのが王族の結婚式なんだよね。

 私も、養子だけど、一応王族になったんだからこのやり方であってるはず。

「どうか、ずっとお傍に置いてください!」

「もちろんだ。ニナが嫌だと言おうともな」

 私がここの所何回も考えていた逆プロポーズのセリフを言って頭を下げた瞬間。

 まるで言われることがわかっていたかのような素早いタイミングで、シアン様が応えた。

「・・・あ、あれぇ・・・?」

 どうしたのか、その答えを聞いた瞬間私の目から涙がぽろぽろ零れてきた。

 何度も頭の中考えて、伝えたいことをまとめてきたのに。まだまだ伝えたい思いがあるのに、急な涙のせいで、全部吹っ飛んでしまう。

「おかしいな・・・すみません、ちょっと待ってくださいね」

 私はあわてて目を瞬かせてなんとか泣き止もうとする。

 シアン様もやけに慌てた様子で、ハンカチで私の目元を拭いながら背中をさすってくれる。

「泣くな、ニナ。ニナに泣かれるのは苦手だ」

「ごめんなさい。でも、なんだか・・・悲しくて泣いてるわけじゃないんです。ただ、なんだか・・・」

「・・・うん」

 シアン様は子供にするように、私の頭をポンポンと撫でてくれる。

「私、シアン様のお気持ち、全然気づかなくて。いろいろひどいこともしてしまって・・・。でもシアン様はお優しいから、許してくれて。ずっと好きでいてくれて」

 ひゃっくりしながら、それでも今言わなくては一生言えない気がして、私は話す。

「私、何にも知らないから、ご正妃様なんて務まる自信もないですけど。でも、シアン様のこと、誰よりも傍で、お支えしたいです。シアン様と、リアムと、三人でちゃんと家族になりたいです」

 もうしゃくりあげすぎて、ちゃんと文になってるか自信もない。

 でも、シアン様はそんな私の話を辛抱強く聞いてくれる。

「そのためなら、いっぱいがんばって、この国にふさわしいご正妃様になります。だから」

「うん」

「だから、私、シアン様のこと、ちゃんと好きですから、私と結婚してください」

 いっぱいいっぱいな告白を私がし終えると、私は自分からシアン様にぎゅうっと抱き付いた。

 私は無知だったから、シアン様からのプロポーズを流してしまった。

 今思うと、すごく・・・なんていうか、もったいなくて。だって、結婚の儀式っていう神聖な行為を、一生のうちで指折りの大事な儀式を、私覚えてないんだもの!

 しかも、当時はちょっとちがったにせよ、今ではすごく大好きな人からのプロポーズ・・・。

 でも、もう一回してくださいなんて、言えるわけもなく。

 そこで、この逆プロポーズを思い立ったのだ。

「ああ。ニナ、ありがとう・・・大好きだ」

 シアン様はそういうと、白い花を自分の上着の胸ポケットに差し、ついで私の顎に指をかけた。

 ちゅっと軽い音をたてて、キスされる。案外あっさりした口づけに、若干拍子抜けする。いつもなら、この流れならもっと濃厚な口づけが来るはずなんだけど・・・?いや、けしてそれを待ってたわけじゃないけども!!

「そんな顔をするな。残念ながら、好ましくないギャラリーがいるぞ」

 そんな顔ってどんな顔よ?

 私は頬を染めながら、シアン様が指さすほうを見ると、ぴょこりと建物の陰から覗いた二つの小さな顔。それがじーっとこちらを見ていた。

「リアム!ロゼッタ!」

 私は悲鳴のような声を上げた。

 その声が引き金になったのか、二人の幼子は勢いよく駆け出した。

「とうさまとかあさま、ちゅーしてたぁ!」

「殿下とニナ様、らぶらぶー!」

「こらっ!」

 二人はきゃっきゃゃっと大声でそんなことを騒ぎながら駆け去っていく。

 残されたのは、言い知れぬ虚脱感に襲われた私と肩を震わせて笑いをこらえているシアン様。

「・・・シアン様?二人が見ていたことに気づいてましたね?」

「うん?だから手加減しただろう?」

 私がじとっとシアン様を睨むと、まだ少し笑いを残しながらそんなことを返してくる。

「もうっ!」

「怒るな、ニナ。それに両親の仲のいい姿を見ることは子供の教育にもいいはずだ」

 なんだかうまく丸め込まれているような気がするけれど。

 まるで仕切り直しというかのように、再びシアン様の顔が近づいてきて、今度は手加減なしの口づけが降ってきた。

 そして、飽くことのない口づけは鬼の形相のラウドさんが迎えに来るまで続いたのだった。

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