大きな大きな樹の下で
その日私は正妃宮に来ていた。
シアン様の戴冠式まであと一週間。
王宮内全体がなんともせわしない空気に満ちている。
そんな中、私は色とりどりの布を見ていた。
「では、カーテンの色はこの落ち着いた青色で」
私はシンシアさんの確認に頷く。
戴冠式まであと一週間。つまり、私もリアムもあと一週間で第一宮殿から正妃宮に引っ越すのだ。
今日はその引っ越し先の調度品の確認に来ている。
私は前の正妃様の使っていた物でいいといったんだけど、陛下の退位発表と同時期に正妃宮を辞された正妃様は、気に入った家具類を隠居先に持って行ってしまったそうで。
たしかに部屋に入ってみると、不自然に部屋ががらんとしていた。
とりあえず、他の部屋はともかく自分たちの居室ぐらいはなんとかしないと・・・。一週間後からはシアン様もこちらの宮殿で過ごされるらしいし・・・。
「リアムのお部屋はねぇ、これがいい!」
一緒にカーテンの布地をみていたリアムが明るいオレンジ色の布をさす。
「いいんじゃない?明るくて」
「それでね、隣の窓のはこっちにするの」
次に指したのは鮮やかな、はっきりした緑。
「・・・リアム。カーテンは同じお部屋なら、同じ色にしなさい」
どんだけカラフルな部屋にする気なんだ。
その前に選んだ絨毯は落ち着いた、とはいえピンクだし。
子供の色彩感覚って斬新だわ・・・。
「えー?なんでー?」
リアムが盛大にむくれる。
あまりに見事にほっぺが膨れたからか、シンシアさんがクスクス笑い出した。
「では、リアム様。この緑は寝具の色にされてはいかがですか?」
シンシアさんの提案にリアムは少し迷った末頷いた。
はぁ、よかった。ごねられなくて・・・
「さて。あとは・・・」
シンシアさんは部屋を見回すと、忙しそうに立ち動く他の女官と話し出した。
「かあさま、かあさま。ちょっと探検してきていい?」
リアムがこっそり聞いてくる。
私は少し考えて頷いた。
「そうね、一息入れましょう。ちょっと待ってて」
私は部屋の入口付近にいた近衛兵にリアムの護衛兼お守りを頼んだ。
リアムは近衛兵を二人引き連れて、意気揚々と部屋を出ていく。
私も一度室内をのぞいてから、皆がまだ忙しそうなのを眺め裏庭に向かうことにする。
一応近くにいた女官に声をかけておく。
私の居室になる部屋から裏庭は近くて、ほどなくしてあの宝樹が窓から見えてきた。
外に出てしげしげとその樹を見上げる。
何度見ても大きい樹・・・。
もうすぐ花の時期だからか小さな蕾もそこかしこに見える。
この樹に、この花に、どれだけ重要な意味があるかなんて見てるだけじゃ、やっぱりわからないなぁ。ただひたすら、大きくて立派な樹というだけで。
「よいしょっ、と・・・」
思い立って、ひょいと樹の幹に手をかけ体を持ち上げようとした。
が、なんてこと!
・・・あがらない・・・。
けして!太ったわけじゃない!ただ昔より身軽さがなくなっただけ!
「・・・いいもん、別に・・・」
誰に聞かせるわけでもないが、独りごちる。
・・・やっぱここのところ、急にいい食べ物を食べ過ぎてるせいか・・・。
反省しながら顔を上げると、一つだけ今にも咲きそうな蕾を見つけた。
この花の時期がきたということは、シアン様の誕生日が近くなったということ。
シアン様の成人祝いの宴の日に、あの花をいただいた。
もう四年も前のことで、それがそんな特別なことだとは思わなかったから、自分の中からその時の記憶がほとんどなくなってる。
それが、今はけっこう残念で・・・。
「かあさまー!」
物思いに耽っていると、背後からリアムの声がかかった。
振り返ると、護衛を振りきる勢いでリアムが駆けてくる。
どこでも変わらないリアムの元気の良さに、つい笑みがこぼれた。




