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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第2章
32/43

相互理解が大切です(1)

「四年前・・・あの日はたしか朝から殿下を探して、正妃宮に行って」

「そうだ。ニナはいつものように、俺を宝樹ほうじゅの上まで迎えに来てくれた」

 あのやたら大きな木、「ほうじゅ」っていうんだ。

「俺たちはあの日、あそこで、王族にとっての婚礼儀式を行っただろう?ニナも宝樹の花を受け取って、プロポーズを承諾したじゃないか」

「・・・・・・」

 えぇ!?

 もしかしてあの時!?

「あの、あの、殿下?たいへん不勉強で申し訳ないのですが!王族の方の婚礼儀式とはどのようなものなのでしょうか?」

 私の言葉に殿下の顔色が変わった。やばい、怒らせた!?

「・・・王族は愛を神には誓わない。建国の祖、クレイ初代陛下と、その唯一無二の妃。お二人が生涯の愛を誓い合ったという樹。そして初代陛下以降、先祖たちの育む愛を見守ってきた宝樹に愛を誓う。その白い花を相手が受け取ったら、結婚を承諾したということ。そして二人が互いの手を合わせ、生涯伴にあることを宣誓すれば婚礼儀式は成る。婚礼披露はまた別に行うがな」

 ・・・・・・・なんということでしょう。

 朧な記憶ながら、殿下がおっしゃったとおりのことが起きた気がしますよ・・・。

 たしかに、白いお花を髪にさしてもらって、手を握られて、「一生傍に」って言われて、「はい」って答えた。

 うわぁ!?起きたことだけ並べると、確かに婚礼儀式、成立してる!!

 あわあわとパニック起こしてる私に、殿下は深いため息をつかれた。

「・・・わかっていなかったのだな?」

「・・・はい」

 沈痛な表情の殿下に私も暗い声で答える。

 ありえない話だ。

 かたや結婚したと思っていて、かたやまったくそんな自覚がなかったんだから。

 でもこれって私が悪いよねぇ。

 たぶん王族の婚礼儀式って、王宮勤め、しかも皇太子殿下付きの女官ならなら知らなきゃおかしい話なんだろうし。

 あぁ、なんてこと!!

「なんということだ・・・」

 考えていたことと同じ言葉が殿下の口からも漏れる。

「では、ニナは結婚したと思わず、あの晩を迎えたのか」

「・・・はい」

 殿下は腕で顔を覆ってしまわれた。

 長い長い沈黙が落ちる。

 殿下には悪いけど、私は私で頭の中を整理するのでいっぱいいっぱいだった。

 つまり、よ。

 殿下は私と結婚したと思ってて、だから「最終試験」の相手にも私を指名したと。

 あの夜は、たしか殿下が一六歳になられて半年以上過ぎた頃だったから、婚礼儀式からは半年が経過している。

 でも、その間私は普通に女官としてお仕えしていたけど・・・?

 普通、殿下と結婚したらそういうわけにはいかないんじゃないの?

「あの・・・」

 私は意を決して殿下に尋ねてみることにした。

「婚礼儀式はなったと仰いましたけど、あの夜まで女官としてお仕えしていましたよね?」

 殿下は顔を覆っていた腕をずらすと、隙間からちらりと私を見ながら答える。

「・・・それは・・・ニナには悪かったと思っているが、周囲の説得がうまくいかなかったんだ」

「?」

「まわりに口さがない奴が多くてな。ニナの生まれやらをうるさくいう奴が、当時は多かったんだ。それに対抗するには俺は若すぎて、力がなかった。貴族どもの中には、閨の相手として自分の娘を送り込んで、そのまま妃の座をおさえたがるやつも多かったしな」

 それは理解できる。

 自分でも、正妃でも側妃でも、とにかく「妃」になんてなれないと思う。もっとそれに見合う人、後ろ盾がしっかりして、殿下のお力になれる人がいいと思うもの。

「でも俺は妃はニナ一人と決めていたから。閨の相手をニナ以外は拒否した。大臣どもと根競べが続いたが、おば上の助力もあって、ニナを第一宮殿に迎えることができたんだ」

 なるほどー!そんな裏話があっあんですね!

 もはやどこか他人事のように感じる。

 しかしながら当然他人事ではない。

 殿下は私を恨めしそうに見ている。

「あ、あのぅ・・・」

「ニナは俺が立場をかさに女官に伽を命じるような、非道なやつだと思っていたわけだな」

 だらだらと冷や汗が背筋を伝う。

 その通りだけど、そうと言える雰囲気じゃない。

 肯定したらそれこそ、今度こそ宝樹の上からおりてこなくなっちゃいそうだ。

「ちょ、ちょっとはそう思いましたけど!でもそれだけじゃなくて!私だって本当に嫌だったらお断りしてます!なんていうか、殿下のことはお立場が違いすぎて、そういう風に見れなくて。でもお慕いしていたのも本当で。あ、お慕いって言っても、恋愛感情っていうより「主、兼、弟」みたいな感じのが強くて。殿下に「弟」とか失礼ですけど!でもでも、殿下、弟なはずなのに急にかっこよくなられて、ドキドキするようなことしたり言われたりするからっ」

 もう話しているうちに何が言いたいのか、自分でもちっともわからない。

 混乱ここに極まれり。いたたまれなさに俯いた。

 と、頭上から押し殺した笑い声が降ってきた。

「くくっ。・・・やはり、俺たちには会話が必要だな」

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