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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第2章
28/43

前門の虎、後門の狼、では横は?(1)

 新王即位。

 その知らせは、王都からだいぶ離れたチレンの村にも異例の速さで届いた。

 ちょうどキースに再会した日から三月ほどたった頃だろうか。

 再会直後は追っ手に怯え村を出ようかと思ったが、もうすぐ冬が近いことや、厳しい季節の中リアムを連れて旅することや、くるかこないかわからない追っ手のために、居心地のいいこの場所を捨てることがためらわれた。

 そして、この頃になるともう追っ手の心配はほとんどしなくなっていた。

 きっと殿下だって、一時手を出した女官のことなど、もし耳に入ってももう興味はないでしょう。

「新しい、王様は・・・どなた?」

「そりゃ、もちろん皇太子殿下であらせられたシアン様よ」

 行きつけの雑貨屋の女主人は当然というように言う。

「そう、そうですよね。・・・陛下は?まだ退位されるお年には早いのでは?」

「そうだよねぇ。詳しいことはあたしも知らないよ。ただ、来月の紅の日が即位式らしいから、国旗をあげろと村長から知らせが来たんだよ」

 来月の紅の日。ちょうと一月後だ。

 私は雑貨屋で必要なものを買うと、ふらふらと村はずれにある修道院に向かった。

 ついに殿下が王になられる。

 一時は一生涯お仕えしようと思った方。

 いろいろあったけど、殿下ならきっとよい王になられる。民のための施政をしてくださる。

 それを間近で見れないのは少し悔しいけど、一国民として応援していこう。

 そんなことを考えながら修道院の門をくぐった。



 考え事をしていたので、異変に気づくのに遅れた。

「かあさま!!」

「リアム・・・?」

 なぜだか必死な顔で飛びついてきたのは愛娘。顔を上げると、修道院長が真っ青な顔で私を見ている。

 そして、その修道院長の前に立つのは・・・

「・・・殿下・・・?」

 見間違えるはずがない。

 最後に別れた時より成長なさって一回りがっしりされてたり、長かった髪が短くなってたり、全体に男っぽくなってたりと変わったところはあれど、私が間違えるはずはない。シアン皇太子殿下、その人だった。

 抱えていた雑貨屋の紙袋が腕から滑り落ち、中身が地面に散らばる。

 頭が真っ白で、動けない。

「ずいぶん探したよ、ニナ」

 殿下はそう言って嬉しそうに微笑まれた。

 ただ!ただ目がちっとも笑ってない!!

 一歩、殿下が私たちに近づく。私はリアムを抱き上げ、一歩後ずさった。

「四年、四年間だ。俺がどれだけこの時を待ってたかわかるか?」

 じりじりと私は下がり続ける。殿下はゆっくりと近寄り続ける。

「なんで逃げるんだ、ニナ。やっと君を幸せにできる準備が整ったんだ。もういい加減帰ってきてくれ」

 だめだ。なんかわかんないけど、怖い!!

 四年もたったのに、殿下の瞳の中の色はちっとも変ってない。

 あの、私を軟禁してた時のままだ。トラウマが蘇る。

「ニナ、俺も反省している。あの時は君を手に入れた喜びで見境がなくなっていた。君の負担も考えず。悪かったから帰ってきてくれ」

 王族が一般人に謝っている。そのありえない光景に修道院の人たちがざわめきだす。

 しかも言ってることはあきらかに、付き合いだしのばかな恋人たちの痴話喧嘩みたいな内容だ。  

 あぁ、もうこの修道院にはいられない・・・。

「かあさまぁ・・・」

 腕の中から不安そうなリアムの声がする。

「しっかり捕まってなさい」

 私は小声でささやくと、ばっと身をひるがえした。ここからなら修道院の門も近い。

「どこへいらっしゃるの?」

 駆け出した先にはあでやかに微笑むベアトリーチェ様がいた。


2013.11.9 誤字修正しました。

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