王子様
その日の晩。私は昼間のキースの件もあり、つい色々考え込んでしまった。
子供心にいつもとちがう私が心配になったのだろう、リアムがやたらとひっついてくる。
「かあさま、つかれたの?お背中とんとんする?」
やさしい言葉に涙が出そうになる。
弱気になってる場合じゃない。この子に心配かけてどうするんだ!
自分自身に喝を入れ、私は勢いよく立ち上がった。
「リアム、お風呂に行きましょう!」
温かい湯につかれば、胸につかえてるものもさっぱりと流れ落ちるかもしれない。
そうじゃなくても、疲れた体ではろくな考えが浮かばない。
今日は早く寝よう。
「わーい!おふろおふろ!」
リアムはピョンピョン飛び跳ねながら、大浴場に向かう。
この修道院は、居住者向けにけっこう立派な大浴場を備えていた。
足を伸ばして湯につかり、一日の疲れをほぐしていく時は至福である。。
今日は時間帯が良かったのか、それほど混んでいなかった。
「かあさま、とうさまのおはなししてー」
湯船でくつろぐ私の膝に座っていたリアムがねだる。
「いいわよ。リアムのお父様はねえ、王子様なのよ」
きゃーっとリアムが嬉しそうにはしゃぐ。
少し前に、ある少女が親元を逃げ出しこちらを頼ってきたのだが、その少女が持っていた絵本が子供たち、とくに女の子に大受けしたのだ。
内容は昔からある、お姫様と王子様のハッピーエンドの童話である。
寝る前にその話をねだられたのだが、あいにく私はその話をよく知らなかったので、「リアムのお父様」というお話を作った。
作ったというか、本当のことなんだけど、どうせこんな話周りに聞こえたところで誰も信じやしない。
それに、父を知らないリアムに、少しでも父親の姿を伝えたいというわずかな望みもあった。
「きらきら輝く金の髪に、真っ青な宝石みたいな目。笑うととっても優しいお顔になるの。リアムはお父様にそっくりよ。とっても大きな国の王子様で、いつもお国のために頑張ってるから、リアムやお母様にはなかなか会えないの」
「とうさま忙しい?だから会えないの?」
「そう、とっても。でもいつもリアムのことを考えてるのよ」
「忙しいの終わったら会えるかな?」
「そうねぇ。きっとね」
そう答えると、嬉しそうに笑う。
いつか、大きくなったこの子が父親のことを聞いてきたら何と言おうか。この話をするわけにはいかないよなぁ。
というか、そんな先の話より、今は考えることがほかにある!キースだ!
まさか辺境警備にまわっているキースから、王宮に話がいくことはないだろうけど。でも、キースは何か感づいてたっぽいし。
私上手くごまかせたかしら!?
ぐるぐると思考が回る。
「かあさまー、なんかきもちわるい・・・」
「えっ!?きゃあ、リアム!」
私が思考の渦に巻き込まれている間に、真っ赤に茹ったリアムができあがっていた。




