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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第2章
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王子様

 その日の晩。私は昼間のキースの件もあり、つい色々考え込んでしまった。

 子供心にいつもとちがう私が心配になったのだろう、リアムがやたらとひっついてくる。

「かあさま、つかれたの?お背中とんとんする?」

 やさしい言葉に涙が出そうになる。

 弱気になってる場合じゃない。この子に心配かけてどうするんだ!

 自分自身に喝を入れ、私は勢いよく立ち上がった。

「リアム、お風呂に行きましょう!」

 温かい湯につかれば、胸につかえてるものもさっぱりと流れ落ちるかもしれない。

 そうじゃなくても、疲れた体ではろくな考えが浮かばない。

 今日は早く寝よう。

「わーい!おふろおふろ!」

 リアムはピョンピョン飛び跳ねながら、大浴場に向かう。

 この修道院は、居住者向けにけっこう立派な大浴場を備えていた。

 足を伸ばして湯につかり、一日の疲れをほぐしていく時は至福である。。

 今日は時間帯が良かったのか、それほど混んでいなかった。

「かあさま、とうさまのおはなししてー」

 湯船でくつろぐ私の膝に座っていたリアムがねだる。

「いいわよ。リアムのお父様はねえ、王子様なのよ」

 きゃーっとリアムが嬉しそうにはしゃぐ。

 少し前に、ある少女が親元を逃げ出しこちらを頼ってきたのだが、その少女が持っていた絵本が子供たち、とくに女の子に大受けしたのだ。

 内容は昔からある、お姫様と王子様のハッピーエンドの童話である。

 寝る前にその話をねだられたのだが、あいにく私はその話をよく知らなかったので、「リアムのお父様」というお話を作った。

 作ったというか、本当のことなんだけど、どうせこんな話周りに聞こえたところで誰も信じやしない。

 それに、父を知らないリアムに、少しでも父親の姿を伝えたいというわずかな望みもあった。

「きらきら輝く金の髪に、真っ青な宝石みたいな目。笑うととっても優しいお顔になるの。リアムはお父様にそっくりよ。とっても大きな国の王子様で、いつもお国のために頑張ってるから、リアムやお母様にはなかなか会えないの」

「とうさま忙しい?だから会えないの?」

「そう、とっても。でもいつもリアムのことを考えてるのよ」

「忙しいの終わったら会えるかな?」

「そうねぇ。きっとね」

 そう答えると、嬉しそうに笑う。

 いつか、大きくなったこの子が父親のことを聞いてきたら何と言おうか。この話をするわけにはいかないよなぁ。

 というか、そんな先の話より、今は考えることがほかにある!キースだ!

 まさか辺境警備にまわっているキースから、王宮に話がいくことはないだろうけど。でも、キースは何か感づいてたっぽいし。

 私上手くごまかせたかしら!?

 ぐるぐると思考が回る。

「かあさまー、なんかきもちわるい・・・」

「えっ!?きゃあ、リアム!」

 私が思考の渦に巻き込まれている間に、真っ赤に茹ったリアムができあがっていた。

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