まさかまさかの(2)
「おめでたです。三ヶ月を過ぎた頃ですね。ちょっと貧血気味なようなので、鉄分の多い食事を心がけて。ではお大事に」
意識の戻った私はシンシアさんの実家のベッドに寝かされていた。
道の途中で倒れた私は、ちょうどシンシアさんちに帰る途中の馬車に運んでもらったそうだ。運が良かった。
体は少しだるいけど、でもそれどころじゃない。
触診と、軽い問診の後、シンシアさんが呼んでくれた医者は事もなげに告げた。
「いや、ちょっと待って!先生!何かの間違いでは!?」
私は驚愕のあまり、帰ろうとする先生にとりすがった。
先生は気分を害したのか、私の手をべりっとはがす。
「間違いありません。はっきり兆候が出ています」
呆然とする私とシンシアさんをおいて、医者はさっさと帰って行った。
「まぁ!驚いた!そうとわかれば、ほらお腹を冷やさないで。今スープを持ってくるからね」
おばさんは微妙な雰囲気の私たちに気を使ったのか、やけに明るい声で話すと、私に布団をいっぱいかけて出ていった。
「と、とにかく・・・ベアトリーチェ様にご連絡しないと・・・」
シンシアさんは呟くと、やはり呆然とした様子で机に向かった。
おそらく相当簡潔にまとめたのだろう。すぐに書き終えると文を持って部屋から出ていった。
一人になると、じわじわと頭が現実に追いつく。
子供。
殿下と、私の、子供。
お腹に手を当ててもまったく実感はない。
自分でも予想外なことに、真っ先にあがった感情は喜びだった。




