まさかまさかの(1)
「おはようございます、ニナ様」
カーテンをあけながらシンシアさんが言う。
私はというと、夢に引きずられてか、目はあいたもののなんだかぼーっとしたまんま、動く気にならない。
あの後、キースはなにやら仕事でミスしたとかで、辺境警備隊に異動になったのよね。
殿下のおかげでふっきったとはいえ、やはり顔をあわせば気まずかったから、正直、異動と聞いて安堵した。
「ニナ様?」
応えない私にシンシアさんはさらに声をかけてくる。
私はやっと意識がはっきりしだした。
「おはようございます、シンシアさん」
窓から見える庭の木々は朝日を受けて輝いていた。
「今日はもしよろしければ、朝食の後、市を見に行きませんか?ちょうど、月に一度の大市の日でとても賑わうんです」
「ぜひ!なんだか楽しそうです」
おばさんのおいしい朝食を食べて、私たちはさっそく市にくり出した。
シンシアさんの説明どおり、海の幸山の幸、この国の名産品から、周辺国の特産品、それに細々した生活用品が売られていた。
こんな賑やかな場所は、お祭り以外ではじめてだ。
色んな品々、それを商う多様な人々をみてると13歳で王宮にあがってから、とても狭い世界で生きてきたんだなぁと実感する。
「そうだ。前に頼まれていた動きやすい服!ここで買っていきましょうか?馴染みの店があるんです」
そう言われ連れて行かれた店は、たしかにかわいくて手頃な服がいっぱいあった。
以前シンシアさんに渡した二枚の銀貨で三着も買えた。
他にも店を一通り見た頃には夕方になっていた。
色々ほしくなってしまったけど、結局買ったのはベアトリーチェ様への心ばかりのお礼にと、日持ちのする、かわいらしい砂糖細工の菓子だけにした。
体は疲れていたけど、久々に明るい気持ちで帰路を急ぐ。
楽しくお喋りに興じていた私は、ふっと立ち眩みにみまわれた。
体中の血が下がって、足元にたまってるみたい。
ぐらんぐらん、世界が回る。
「あ・・・あら・・・?」
「ニナ様?」
「ごめんなさい、なんだか・・・ちょっと・・・」
「ニナ様!」
そして、悲鳴のようなシンシアさんの声を最後に私は意識を手放した。




