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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第一章
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殿下と私ー過去編ー(5)

 夢はうつろう。


 今度は恋人、キースと別れた頃の場面だ。

 私たちは一年付き合い、結婚の話も出たが別れた。

「キースと別れたんだって?」

 また唐突に殿下に聞かれた。

「・・・はい」

 新しすぎる傷は、私の声を震わせた。

 殿下はちらりと私を見た。

「なんでさ。ニナが浮気、なんてするわけないし。向こうが浮気でもした?」

 少し意地悪そうな殿下の声。

「ちがいます!キースは浮気なんて!」

 感情の高ぶりに涙がこぼれた。

 殿下はそっと私の手を引き、並んでソファに腰かけさせた。

「・・・殿下?」

 この頃、すでに殿下は私の背丈を抜いていて、立ってる時に顔を伺うには顎をだいぶあげるようだった。

 しかし並んで座ればそこまで顔は遠くない。

 王族の方と並んで座ることなんて、そうないから気づかなかった。

「ニナを泣かせるなんて許せないな。キースは何をしたんだい?」

 殿下は優しい指先で私の涙を拭った。

「本当に・・・キース、様は悪くないんです・・・ただ、キース様のお家柄に私が相応しくなかっただけで・・・」

 なるべくこれ以上泣かないように、頭を整理しながらしゃべる。

 そしてようやく、無理矢理だが笑みを浮かべることができた。

「・・・どういうこと?」

「そのままです、殿下。キース様にはもっとふさわしい方がいます。私ではキース様を幸せにして差し上げられないのがわかったんです」

「それは、ニナが自分でそう思ったの?それともそう思ってしまうようなことがあったのか?」

 とっさに表情が作れなかった。

 そして殿下は私の表情から正しい答えを読みとった。

 それ以上深くは聞かず、殿下は唇を噛みしめると、私の頭をご自分の肩に押しつけた。

「家と君を天秤にかけるような男はニナにふさわしくない。別れてよかったんだ」

 殿下の言葉に、おさまったはずの涙がまたせり上がってくる。

 思い出されるのは、連れて行かれた彼の家でのご両親の態度。

 なんの後ろ盾もないことをあからさまに蔑まれた。そして、彼はそんな両親を咎めなかった。

 頭ではそんな男、別れて正解と思ってる。

 しかしともに過ごした一年が、私を苦しめた。

 未練と、彼の両親から受けた屈辱。色んな感情が涙に乗って溢れ、殿下の肩に吸い込まれた。

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