想定外の追っ手
女官長からの退職金をもらった次の日。
のんびり部屋で刺繍をしていると、急に部屋の外がバタバタしだした。
気になって廊下に顔を出してみる
するとちょうどシンシアさんからこちらに来るところだった。
「あぁ、ニナ様!」
私の顔を見ると、珍しく駆け足になった。
「どうしたんですか?何か」
「いいから、お部屋に!」
言葉を途中で遮られ、部屋に押し込められる。
目を白黒させていると、シンシアさんは手に持っていた洋服を乱暴にソファに置き、私の服を脱がしだした。
いったい、何事!?
「ちょっ、ちょっと待って!いったい何があったんですか!?」
「殿下です!」
・・・・・・・・・は?
よっぽどポカンと間の抜けた顔をしたのだろう、シンシアさんは再度同じことを今度は少しゆっくり言った。
「シアン殿下です」
シンシアさんによると、シアン殿下は先触れもなく、供を数人付けただけで、急遽ストランデル邸に現れたそうだ。
そして、私を、探しているのだと・・・。
今はベアトリーチェ様がなんとか引き留めてくださってるが、今にも屋敷中を探し出しかねない勢いだという。
「ここにいると連れ戻されかねません。殿下のお怒りは凄まじかったですから・・・」
シンシアさんはぶるりと身を震わせる。
怒ってる殿下・・・想像がつかない。いつもニコニコ、穏やかな方だったからなぁ。
でもシンシアさんの真っ青な顔を見ると、私もなんだか恐くなってきた。
きっと戯れに手を出した女官ごときが、殿下が捨てるならともかく、勝手に逃げ出したからお怒りなんだわ。
「これから私の実家に参ります。王都から馬車で少しのところです。そこで数日、ほとぼりが冷めるまでご辛抱ください」
「ご迷惑をおかけします」
事態が呑み込めた私は、念のため、王宮から逃げた時にもちだした大事な品々と、もらったばかりの退職金を手早くカバンに詰めた。
そして、おそらくシンシアさんの私服だろう。普通の町娘が着るような服に着替える。
念のため、顔が隠れるようなフード付きの外套も羽織る。
「さぁ、お急ぎください!」
こうして、私は再び殿下から逃げ出した。




