感謝の日(2)
部屋に戻った私はシンシアさんに一つ頼みごとをした。
「動きやすい服を用意してほしいんです。できるだけ働きやすそうな」
「働きやすい、ですか・・・?」
「はい」
私はもらったばかりの退職金から何枚か銀貨を取り出すとシンシアさんに渡した。
「これで買ってきてもらいたいんです」
「ですが・・・」
「私は元はただの女官です。今後、どうなるかまだわかりませんが、おそらくこんな優雅な生活は送れることはありません」
躊躇うシンシアさんに、私は少しおどけた表情をしてみせてから、真剣に話す。
「働く勘、をなくしたくないんです」
抽象的な理由だったが、シンシアさんはわかってくれたのだろう。顔から躊躇いが消えた。
女官長からいただいた退職金の、最初の使い道。
きっとこれがふさわしい。
私は生きてくために働く。
そのためには、今着てるようなきらびやかなドレスはいらないのだ。丈夫で、惜しみなく洗えるような服がまず必要だ。
「わかりました。私が普段使ってる店があります。そこでご用意いたします」
「ありがとうございます!」
「ですが。これは多すぎです。これでは私たちの服が何枚買えると思います?」
急に少しくだけた口調になったシンシアさんは銀貨を二枚だけ残し、後を返してくる。
「これで十分です。次の休日に見てきます」
そして悪戯っぽく笑ってみせた。




