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逃げ出した妃  作者: ひまわり
第一章
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殿下と私ー過去編ー(2)

 夢はまだ続いた。


 場面は変わって、私が少し女官生活に馴れた頃だった。

「殿下、シアン殿下。おはようございます。朝ですよー」

 私はまだ眠るシアン殿下に声をかける。

 まだ新米の私に任されていた仕事は簡単な雑用ばかり。

 朝殿下を起こし、着替えさせ、朝食の席までお供する。そして殿下が勉強してる間に、お部屋のお掃除。それから剣の稽古を毎日される殿下のお着替え。合間合間にお茶をお出ししたり、女官の先輩に仕事を習ったり。

 でも寝起きの悪い殿下を起こすのが一番大変な仕事だったりする。

「殿下ぁ、起きてください!シーアーンーさーまー!」

 なにせ、王族の体においそれと触るわけにはいかない。

 うちの父さまも寝起きは悪かったけど、父さまの場合揺すったり、叩いたり容赦なくできたからよかった。

 殿下の場合、声かけだけで起こさなければならないから大変なのだ。

「シアン殿下ぁ!お願いだから!起きてくだい!」 

 眠る殿下の耳元にギリギリまで顔を寄せて、大声を耳にたたき込む。

 と、ようやく開いた殿下の目がちらりと私の顔を見た。

「あ、おはようございます、殿下!」

「・・・うるさい」

 ようやく起きられてほっと一安心、にこにこの私と寝起き不機嫌一色の殿下。 

 王宮に入ったばかりの頃は、この不機嫌にやりすぎたかとひやひやしたが、今では慣れてしまった。優しい声かけのうちに起きない方が悪いのだ。

 殿下は大きく伸びをすると、近くにあった私の顔を捕まえて、頬にぱっとキスをした。

 最初は王族な方からのキスにびっくりしてしまったけれど、よく考えたらいくら王族とはいえ、殿下はまだ十歳。おはようで、ほっぺにキスなんて10歳の子供が母親や姉に示す親愛表現としては普通のことだ。

 畏れおおいことだけど、殿下は私のことを「姉」代わりぐらいには思ってくださってるのかも。

 そう思うと嬉しくなって、もっとがんばってお仕えしようと思ってしまう。

「おはようございます。今日もいいお天気ですよ。剣のお稽古には少し暑いかもしれませんね」

「うん。涼しい服にしてくれよ、ニナ」

「はい。こちらでよろしいですか?」

 私はあらかじめ先輩に手伝ってもらって選んでおいた衣装を差し出す。

 着替えを手伝いながら、今日の予定を確認する。

「今日はいつものグレイズ先生が体調を崩されたので、代わりの先生がいらっしゃるそうです」

「代わり?」

「はい。レイン・カルマン様という方です」

「・・・・・・・・・」

「・・・?シアン殿下?」

 殿下のお顔を伺うと見たこともないような険しい顔で宙を睨んでいた。

 私は子供がこんな表情ができることに、殿下がそんな表情がすることに驚いてしまって、すっかり狼狽した声を出してしまった。

 殿下ははっと私をみると、先ほどの表情をさっと消した。

「なんでもない。先生の件はわかった」

 事件はこの先生の授業の少し前に起きた。

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