one scene ~chinese cafe~ vol.7
店内はいつの間にかほぼ満席になっていて、呼んだウエイターに
「紹興酒の熱燗を」
の追加オーダーを、「え?」と聞き直されるほど、店内にはお客さん達の声が溢れていた。
僕がもう一度同じことを言ったすぐ後に
「これをもう一つお願いします」
と、空になったトックリを持ち上げて彼女はジェスチャーでウエイターに伝えてくれた。
「てゆーか彼日本人だよ」
ウエイターが席を離れた後に、僕は彼女に言った。
この店のスタッフのほとんどが中国人で、時々メニュー表を指差しながらではないと分からないスタッフもいたので、それを知っている彼女がジェスチャーでアピールしてくれたのだと思った。
「うん、分かってるよ。ただ聞こえてないかなって思って」
「そっか」
「だっていっつも声が聞こえづらいんだもん」
「えっ?」
彼女はそう言って、僕の表情を見た後にすぐ、けらけらと笑った。
今日再会してからの時間の経過のおかげなのか、それともお酒に酔ったからなのか、はたまた賑やかなこの店の飾らない雰囲気に呑まれてなのか、彼女の言葉は確実にあの頃と同じ距離感のものだった。
「別れてからの一年は何をしてたの?」
「・・・何も変わってないよ・・・仕事も、部屋も」
先ほど、やっと切り出せた会心の質問を彼女はそれだけで終わらせていた。
僕は満足できず、質問を重ねた。
離婚の危機だったお姉さんのことやストーカー被害にあってた友達のこと、家出をした後に妊娠して帰って来た実家の猫のこと・・・
ここぞとばかりに質問を立て続けに浴びせたのだが、それは本当に知りたいこと、知っておかなければならないことをまるで見失ってしまったかのようなもので、僕たちが別れる直前に彼女の身の回りで起こり、何気に気になっていた少しシビアっぽい?ことなどについてだった・・・
しかし彼女はそんな僕に呆れもせず、淡々と全ての質問に対して答え、詳しく話を聞かせてくれるのだった。
そんな彼女にいざなわれるかのように、この調子で確信に触れてしまおうと
「てゆーか彼氏はできたの?」・・・
と、いきたかったのだが、その質問だけは保留し、とりあえず賑やかになりだした店内の空気に便乗し、お酒を注文してから聞くことにしたのだ。
彼女が僕の聞こえづらい声の代わりにジェスチャーで頼んでくれたお酒を、ウエイターが運んできてくれテーブルに置いた。
そのトックリを熱くないようにふきんで巻いて持ち、彼女が僕の方に注ごうとしたので、僕がおちょこを持ち上げると
「彼女とはうまくいってるの?」
と、注ぐお酒を見ながら顔を上げずに、彼女が僕に問いかけた。
意表を突かれた・・・